キュウゾウ様の部屋はとても静かだった。

私の心臓の音だけがやけに響いているようで、静まれ静まれと言い聞かせるのに

それが無駄なことだとわかるのに、時間なんてかからなかった。









甘い罠










この状況を順を追って考えていこうと思う。

今日私はヒョーゴ様の遣いで、キュウゾウ様の部屋に来た。こんな事は初めてだった。

私はウキョウ様に仕えていたし、キュウゾウ様は御前様の用心棒。

とはいえ同じ屋敷の中だ。 勿論お互い良く見知っている。

ヒョーゴ様とは会話をする事もあったが 

思えばキュウゾウ様と言葉を交わした事なんて数えるほど。

否、交わしたというのは間違いかも知れない。あれは挨拶だったように思える。

それがお二人一緒の時であっても、キュウゾウ様は私とヒョーゴ様の話に口を挟む事もせず

いつもヒョーゴ様の隣で、静かに私に視線を向けていたっけ・・・

あ、そんな事ではなくて。 とにかく私は今日初めてキュウゾウ様の部屋へ来て

ヒョーゴ様から預かった物をキュウゾウ様に渡し終え、部屋を出ようと踵を返した瞬間。

何やら固い刀の鞘のようなものにぶつかって態勢を崩し、そのまま床に倒れそうになったんだ。


そして次の瞬間 私はキュウゾウ様の腕の中にいた。それが今の状況だ

たまたま、そう 何もかもが偶然。









突然のことに思考が停止した私は どうすることもできず

ただ、キュウゾウ様の体温を この体に感じてドキドキとするしかなかった。

私の視界は キュウゾウ様のコートの赤い色で覆われ

キュウゾウ様の心音と 私の心音が重なり合うように響いてくる。

見上げればきっと目の前にあるであろうあの顔を思うと 顔すら上げることも出来ない。




こんな風に抱き合って もうどのくらい時が経っただろう。

よろけて受け止められたと言うにはそう、時間が経ちすぎていた。

そして私を抱くキュウゾウ様の腕は 必要以上に強い。




どうにか切り抜けなくては・・このままでは私の心臓が持たない。





「あの、もう大丈夫ですから・・・・ありがとうございます」



勇気を出して言ったのに、キュウゾウ様は一向に私を離そうとはしてくれない。

そうして「・・・・・・」と搾り出すような声で私の名を呼んだ。





「・・・キュウゾウ様?」



返事は無く より一層強まる腕に私はもう一度勇気を出す。




「・・・あの、もう離して下さいませんか」



「駄目だ」






返された台詞に驚いて、ふと上を見上げると

真剣な顔をしたキュウゾウ様の目と、視線がバッチリと絡み合う。

近い、近すぎる。体中の血が一気に顔に集まったように、私の顔は途端に赤くなる。

なんて綺麗な顔をしているんだろう。と、それどころではない

最早 私の視界にはキュウゾウ様の顔しか無く、その顔がぐっと近付いて・・・

耐えられず思わずギュッと目を瞑ると、ふわりと唇に温かい感触が降ってきた。






口付け ・・・ されている






心臓は飛び出さんばかりに跳ね上がり 同時にガクガクと震える足。

そんな私の様子に気付いたかのように 私を支えるキュウゾウ様の腕に力が入る。

そしてキュウゾウ様の口付けは深くなり 私の口内をゆっくりと犯し出した。







朦朧とした意識の中で思い出したのは ヒョーゴ様の声だった。











「はい?」

「すまんな。俺は早急に御前様のところへ行かねばならぬ故」

「私が、ですか?」

殿でなければ意味が無い。頼まれてはくれまいか?」




夕時はウキョウ様も留守で暇であったし、忙しいヒョーゴ様からの頼みなのだ。

承知しました。 そう返事をした時、ヒョーゴ様は口角を上げ 

”キュウゾウはきっと歓迎してくれるよ” と言ったんだ。


もしかして私はヒョーゴ様に、いやお二人に嵌められたんだろうか。








ぐるぐると回る意識の中で キュウゾウ様はまた私の名前を呼ぶ。


広がる甘い感覚 軽い眩暈とともに心は溶け出していきそうになる。


もはや私がこの状況から逃げられるわけはない。











いっそこのまま この甘い罠に掴まってしまおうか





























気遣いヒョーゴ(キュウはただの衝動です・笑)