チャンスを掴め

















「お前、男見る目ねぇな」

「だって・・・」

「だーからやめとけっつったんだ」



隣で泣くの頭をぽんっと叩いて、聞こえるようにハァと溜息をついた。

買い物に付き合った帰り道、休憩とか言って近くの土手に座り込んだのが間違いだった。

朝から元気の無かったに、どうした?珍しく大人しいじゃねーかと突っ込んだらこれだ。

気が強いくせに意外と泣き虫な。 どうやらは男にふられたらしい。

コイツの泣き顔を見るのは初めてじゃないが、その理由が気にくわねえ。

俺も一応男だ。その横でこんなに顔をくしゃくしゃにして泣かなくてもいいだろうに。

それとも俺にはそんな顔見せても平気ってやつか。そう思うとちょっとムカつく。











膝を抱えたまま顔を上げないが気になって、チラリと視線を流した。


そりゃ確かには、美少女ってわけでも、スタイル抜群ってわけでもない。

けど、どうしてだかこんなにも惹かれてる俺は、別に見る目が無いわけでもない。


ちょっとばかし年上だからって、姉ぶって俺の面倒みたがるコイツを、最初はうるさいと思ってた。

けど、屯所で汗だくになって働いてる姿も、不器用なくせに皆の制服を繕ってる姿も。

仕事で留守の間は、ただ俺達の帰りを待って飯作ってくれてることも。

いつも苦労なんてしてません。って顔して、明るく笑ってることも。

俺は知ってる。 全部知ってる。


いつも笑顔を振りまいて、俺に懐いてきた

しかし、気づけば懐いてたのは俺の方だったのかもしれない。




あの野郎・・・ 

今度会ったら一発殴ってやるか。


くわえていた煙草をギュと地面に押し付けてそう思う。

けど、心のどこかでは、コイツがあの男にふられた事を喜んでいる自分がいるのも確かだ。


そうだ、コイツの良さを知ってるのは俺だけだ。

あの男にはわからなくていい。









「もう泣くな。それ以上泣くとブスになんぞ」

「……どうせブスですよ」

「捻くれんな。せっかく慰めてやってんのに」

「それで慰めてるつもり?」


「お前が目ぇ真っ赤に腫らした顔なんて見てらんねぇ。っつーことだよ」


「は、はは・・・ごめん。 トシは優しいね」


「バーカ、今頃気付くな」



そう言ってこつんと の頭を小突くと

は涙をそっと指でぬぐって俺ににっこりと微笑みかけた。








あぁ、やっぱりあの男は女を見る目がない。

だってそうだ、男を見る目がない。






はすくっと立ち上がってそんな俺の気も知らず、またにこりと笑った。


「付き合わせてごめんね」

「・・・・・」

「もう大丈夫。帰ろっか」

「・・・・」



見上げたの笑顔は、陽に照らされて眩しかった。

ちょうどいい具合に風も吹いて、の髪と着物がゆらゆらと揺れる。

それが何だか綺麗に見えて、自分の胸が高鳴るのを感じた。


あぁ、何だよ、やっぱりいい女じゃないか。









「ん?どうしたのトシ?」

「……

「え?・・・」





そして俺は、勢いよくの腕を掴んで俺の方に引き寄せた。

急に引っ張られたは、体勢を崩しながら俺に倒れ掛かる。




「ちょっ…!!トシ」

「黙ってろ」

「…トシ・・・」


何か言いたげに俺を見上げるの目をじっと見る。

ぐっと腕に力を入れると、固くなっていたの体から力が抜けていく。

胸の中にあるの柔らかい体が たまらなく気持ち良い。

まだ少し潤んだ目がやけに艶っぽくて、また心臓が鳴る。

ここが人通りのある土手で良かったと、冷静に考えた。

もし誰もいなかったら、部屋の中だったら、俺はをどうしていただろう。








傷心の女につけこむなんて、俺も落ちぶれたもんだ。

でも、正直もうそんなかっこつけてる余裕もない。

すると、そろそろとの腕が俺の背中に回された。

ありがと、トシ・・・ 小さく呟いた声は俺の服に吸い込まれて曇ってた。

胸に顔を埋めたままだが、きっとコイツの顔は赤いに決まってる。

それを証拠に、伝わるの鼓動は俺のそれと変わらないスピードで。




ここでキスしたら、殴られるだろうか

だったらもう少しこのままで・・・



















あれだな、一発殴るってのはヤメだ。  やっぱりあの野郎には丁重に礼を言っておこう。



























心ちゃんへ。少しでも気に入ってもらえれば幸いですv