・・・・・・   



・・・・・・



・・・聞こえるかい・・・?





ふと 自分の名を呼ばれて、読んでいた本から顔を上げた。

低く優しいその声に寄り添うように、私は思念派を近づける。


・・・聞こえてるわ、ブルー・・・


少し離れた彼の部屋から、まっすぐに飛んできているこの思いは

私を包むようにゆっくりと、頭の中に流れ込む。

嬉しさに心が弾むと同時に、気になるのは彼の様子。


・・・ブルー 大丈夫? 疲れてるみたい・・・


・・・大丈夫さ、僕は。 ねぇ・・・


・・・うん?・・・


・・・そっちに行ってもいいかい?・・・



その言葉を聞いて私は思わず笑みがこぼれた。

彼の強い思念はもう、私の部屋のドアのすぐ前まで来ていたからだ。















抱き枕のみる夢は


















静かにドアが開き 彼の姿が見えると、自然に笑みがひろがった。

ブルーは私の顔を見ると、ほっとしたように微笑む。

そしてすぐに隣まで来た彼は、私が手に持っていた本を興味深そうに覗き込んだ。



「また読書かい?は勉強家だね」




ブルーの手は優しく 私の肩に回される。

覗き込んだ時に触れた髪からは、私の好きな匂いがした。



「少しでもみんなの役に立ちたいもの」


気恥ずかしさから俯きながら答える。そう、私には少しの焦りがあった。

ミュウの長となったブルーの恋人として、恥ずかしくない知性を身につけたい。

そして少しでも、彼の役に立ちたいという思いが。




は十分みんなを助けてるよ」


「ありがとう。でも、もっと知りたいの。地球のことをもっと・・」


彼は優しく微笑むと、私の隣に腰を下ろした。

二人用のソファではあったが、わざとに体を密着させて

私の肩にもたれかかるように 体を預けるブルー

触れた彼の体から感じる体温が 愛しかった。


そうしてゆっくりと二人の時間が降りてくる


ブルーは窓を、そして私はまた 読みかけの本に視線を戻した。

彼が何も言わないのはきっと、私の邪魔をするまいとの気遣いだろう。







部屋に唯一つの大きな窓から 光が差し込む。

いつもの暗い宙でなく、今日は珍しく綺麗な惑星が光を放っていた。

その中に浮かぶ白い船、シャングリラ。

私達はこの船で、大きな希望と大きな不安を抱えて生きている。

地球を目指して 気の遠くなるような長い年月を旅している。

ミュウのこと。船のこと。過去のこと。未来のこと。

統率者になった彼には、私には計り知れない苦労や苦難があるのだろう。


時々、こうして夜に私の部屋を訪れることも

初めは会えない寂しさからかと思い込んでいたけれど

どうやら彼はひどく疲れたときに、ここに来るようだ。

今夜も彼は疲れているに違いない。









伸びてきた手に気付いて、その手をゆっくりと握った。


「疲れてるのね。少し休んだ方がいいわ」

視線をすぐ後ろにあるベッドにやると、彼も後ろを振り返り

そして向き直った顔は、少し不満そうに見えた。




「僕一人で?」


「え?」


は、寝ないのかい?」



甘えたような低い声が尋ねてくる。


「あと少し読んでから、と・・」


赤い瞳が揺れる。

そんな瞳で見つめられたら・・・・




「一緒に寝ようと思って来たんだ」



背後から抱きしめるように腰に手が回される。

ふっと首にかかった吐息に 心臓が跳ねる。


「う ん・・」


耳元で囁かれては、私の意志なんて簡単に揺らいでしまう。

読みかけの本はブルーの手によって、閉じられた。

彼の声には所詮 敵うわけもない。


腰に回された腕をゆっくり辿って、その手の上から自分の手を重ねた。












電気を消してベッドに入ると、ゆっくりとブルーの腕が私を抱きこむ。

腕が背中に回されて 引き寄せられて

目の前にはゆっくり上下する 彼の胸。

自分の顔が思わず 熱を持つのがわかる。

何も言葉は交わさないまま、お互いの存在を確かめ合うように抱き合った。

すると間もなく、上から静かな寝息が聞こえ始めて・・・・

私は苦笑するしかなかった。

眠いから一緒に寝ようだなんて、まるで子供みたい。


これじゃあまるで恋人というより、抱き枕だわ。








ミュウの長として凛々しく立ち回る普段の姿からは、誰も想像できないだろう。

寝息を立てる顔を見上げて、じっと見つめれば

自然と込み上げてくるのは、 突き上げるような愛おしさ。


彼に恋焦がれて それでも何もできないでいる私に

愛の言葉をくれたあの日のこと。 今も鮮やかに響いてる声。

あのブルーが、今 私の隣で眠っているんだ。







寝てしまうのは勿体ないから、もう暫くあなたの顔をみていようか。

誰も知らない私だけのブルー。

こんな風に抱き合っていられるのなら

永遠にこのままでも 構わないとさえ思えてしまう。




彼の胸に顔を埋めたまま、瞼を閉じれば 私は幸せに包まれる。


あなたのくれる甘い時間は 私を夢の世界へと誘ってゆく。





ゆったりと うっとりと訪れる まどろみの中



囁きと一緒に彼の唇が 私の髪に触れたような気がして・・・













幸せな抱き枕は 今夜も甘い夢をみる