復活のアイテム
「おかえりぃ〜!」
ガチャリ。玄関のドアが音を立てると同時に大きな声を出した。
私の声に驚いたんだろう。少しの沈黙のあと「た〜だいま」
いつもより小さい声でそう返しながら、真子はこっちを伺うように顔を向けた。
私はリビングのその場所で座ったまま、顔を覗かせてニヤリと笑う。
きっと何かあると勘付いたに違いない。
私を見るその眼は疑いのまなこって奴だ。
まぁそれも仕方ない。いつもなら真子の方から「ただいま」って言って
私はその声が聞こえてからようやく「おかえり」って返すんだから。
冷めてる感じがする? いやいや愛し合ってますよこれでも。
そりゃあ私たちだって同棲生活を始めた当時はもっとラブラブな感じで。
真子が帰って来ると同時に玄関まですっとんでいって、抱きついたりもしてた。
真子だって最初のうちは出かけるときにキスとかしてくれてたわけだけど。
毎日一緒にご飯を食べて寝て起きて行って帰って。
それが日常になると、今まで特別だったことまで当たり前になる。
あぁでも、だからといってそれは寂しいことでもなく、自然の成り行きというか
きっとね、アツアツの新婚さんだって先はこんな風になるんじゃないかと思うの。
まぁそれはいいとして。
玄関からここは数歩しかなく、すぐに部屋の前まで来た真子は
まだ用心してるのか、そこに突っ立っていぶかしげに言う
「なんか企んどるやろ」
「まっ!失礼しちゃう。いいことがあるからおいでよ」
何やらぶつくさ言いながら真子はようやく部屋に入ってきた。
待ってましたとばかりに私は炬燵に入ったままの格好で
「ジャジャーン!」
得意気に両手を広げてみせた。
「・・・・なんやねん」
「炬燵だよ、真子。こたつ」
「見りゃわかるわ・・・で?」
で?って何よ。私は真子が喜ぶと思って買って来たのに。
最近急に寒くなって、エアコンだけじゃ足元が冷えるなーって言ってたじゃない真子。
だから私は今日、空座町に買い物に行ったの。何かいいものは無いかなって。
そしたらたまたま見つけた商店の奥に、ぽつんとあるコレを見つけたわけで。
聞いたら電気代もそうかからないっていうし、有り得ないぐらい格安だったし。
まぁ確かに? テーブルはあちこち傷が入ってるし、足は少しぐらついてるし
少し、いやかなり古臭い感じはするけれど。
あ、でもね。炬燵布団はこれ新しいのよ?
帰りにホームセンターで買ったんだから。2割引のやつ。
「そんなとこで突っ立ってないでさぁ。ね、とにかく入ったら?」
「中に猫とか隠してるんちゃうやろな?」
・・・・私はよほど信用がないらしい。
そんなことを言いながらも、真子は蒲団をめくって向かい側に座った。
あ、隣の方が・・・。 ま、いっか。
「どう?真子」
「どう?って。まぁ、ぬくいな」
あんまり反応が良くなくてガッカリする。
私なんて入った途端、顔がゆるゆる〜っとなったのに。
真子もそうなると思ってたのになぁ。演出がまずかったか。
それにしても真子ってば、遠慮無しに足を延ばしてるもんだから
その無駄に長い足が私の足にどうしても当る。
「」
「ん?」
「蹴るなや」
「蹴ってないよ」
どうしたって当るんだもの。
そういう真子だって私の足を蹴り返してるくせに。
狭い炬燵の中では、静かな戦いが繰り広げられる。
私の足の方が短いんだから、どうしても不利なのに真子は遠慮無しだ。
悔しい。もうこうなったら手で掴んでやるもんね。
私は炬燵に腕を突っ込んだ。と、ほわんとした熱が私の腕を包み込む。
炬燵の中はほかほかで、じんわりとした温もりはなんだか少し懐かしい感じ。
それがとても気持ち良くて。もう真子の足なんてどうでもいい。
「なぁ。なにしとんねん」
「潜ってんの」
「アホか!ガキみたいなことすなや」
真子も潜ってみる?と勧めようと思ったけど、
目の前にある真子の下半身にふと、悪戯心が芽生えてしまった。
もそもそ
狭いながらも暗いそこはちょっとした洞窟だ。
私は即席の探検家。目指すは真子、なんちゃって。
私が中に入ってるからか、真子の足はいつのまにかお行儀良くなっている。
これで動かしたら私の頭を蹴っちゃうもんね。さすがにそれはできないででしょう。
もそもそ
ゴールは間近。ちょうど膝の上に手をかけて、そこから顔を出してやろうと思ってる。
もそもそ。もそもそ。
ばふっ!やっとこさ顔を出してみたら、
「お疲れさん。よう来たな」
真子の顔がもの凄く近くて思わず後ずさる。と同時に、ガシッと顔を両手で挟まれた。
ちょっと苦しい体勢だけど、私の体と真子の体はピタリと密着してる。
そして目の前には真子の案外整った顔。
それがちょっと新鮮で、なんだか鼓動が早くなる。
思わず固まった私に、真子は、にやりと笑って私のおでこにキスをした。
「これは恋人たちの冬の必須アイテムっすよー」
「炬燵がですかぁ?」
「ハイ。これに入るとなんだかイチャイチャしたくなるンス。
冷めかけた恋人たちにはもってこいと思いますよ」
「冷めかけって・・」
「いえいえ一般的にッスよ。アナタと彼氏はらぶらぶでしょうけど」
「ん〜どうしよっかなー」
「しかもこんなに格安!」
変な格好をした結構男前の店長さんの顔を思い出す。
「ね、真子。昔に戻ったみたいだね」
少しうっとりとした眼差しで真子を見上げてそう言った。
「アホ。なんやその幸せそーな顔は」
そんなこと言いつつも照れてる様子が嬉しくて、そのまま真子の胸に顔を埋めた。
あぁ本当ね店長さん。私なんだか幸せよ。