初でーと
この扉の向うに彼がいると思うと、心はゆらゆらと
緊張なのか、期待なのか、よくわからない気持ちに、私の胸は落ち着かない。
そんな気持ちを振り切って 勢いよく扉を開けると
私の目に飛び込んで来たのは 懐かしささえ感じる 彼の赤い髪の色。
副隊長の補佐として、現世に行く事を命じられたのは昨日の晩。
案の定ろくに眠る事もできずに ここに立っている私だけど
緊張しているのは、どうやら私だけではないらしい。
彼ときたら一度こちらを見たっきり
腕組みをしたまま壁とにらめっこしてる。
「二人で現世に行くなんて、初めてですね副隊長」
と、声を掛けてはみたものの
「・・・・そうっすね、さん」
ちっとも嬉しそうじゃない。
「現世に行ったら 美味しい物でも仕入れてきましょうか 副隊長」
「・・・・・・・あぁ」
なんて気の無い返事。
はぁ・・思わず漏れた溜息が、やけに部屋に響いた気がして
私は急いで口元を手で覆い隠した。
この白けたような沈黙、どうしてくれよう
昔の話をすれば、恋次くんは私の後輩だ。
私は六番隊、彼は十一番隊所属、少しづつ接点も無くなりかけた頃
同じ隊に編入された、その吉報に喜びはしたものの
彼はいきなり私を追い越して、副隊長の座に就いていた。
なんとなく漂う緊張感とよそよそしさは
いつのまにか立場が逆転した
この例えようのない 距離感からなのか。
この気まずい空気をどうにかしたいんだけど
彼の気持ちがわからない。
だけど、とりあえずは仕事優先だし
「あの、出発の準備は出来てますけど?・・副隊長」
すると彼は 一瞬怖い顔をして振り向いて
「・・・・・」
何かを言いかけたと思ったのに、そっぽを向いてしまった。
「副隊長〜〜?」
彼の前に回って 顔を覗きこむ。
「だーー!な〜んか苛々する」
いきなり大きな声を出した恋次くんに、ドキンとして後ずさる。
「・・・副隊長?」
「それだ!その呼び方。何とかならないんすか。副隊長、副隊長って」
苛々をそのまま写したような 彼の眉間の皺が気になる。
「だって・・・副隊長じゃない」
「前みたいに、俺のことは名前で呼んでくれていいんすよ」
「いくら年上だからって、副隊長に失礼だもの」
恋次くんは ふっと溜息を一つ
そして気のせいか少し寂しそうにも見えた。
どうしてそんな顔するの?
昨日出した私の結論は、”立場をわきまえよう”なのに
私の決心なんて、簡単に崩れちゃうじゃない。
冗談言って じゃれあって それはずっと昔の話
もうあの頃とは違うんだから ―
「なぁさん、俺、変わったかな?」
ハッと我に返り 恋次くんの姿を改めて目に映す。
あの頃よりも数段、凛々しくなった顔。
あの頃よりも 逞しくなったその腕。
胸元からは死覇装の上からでもわかるほどに
厚くなった胸板がチラリと覗いて・・
私の心臓は急にスピードを上げ出した。
「うん、 か、変わった・・」と
恥ずかしくて 顔なんて見てられなくて思わず俯いた瞬間に
恋次くんが私の肩をぐいと引き寄せて
私の体はその逞しい胸の中に包まれた。
彼の鼓動が耳元に 直接響いてくる。
「これでやっと、対等になれたわけだ」
え?
何が何だかわからなくて、私はほんの少し抵抗をしてみたのだけれど
更に強い力で抱きすくめられる。
所詮男の人の力に敵うわけは無い。
「ちょっ・・・恋次くん」
「恋次だって」
「れ、恋次?」
「今日から俺も”さん”は付けねぇからな? 」
「さっき言ったろ?対等になったって・・・もう遠慮なく行こうぜ」
ゆっくりとした口調が 私の胸の奥にすとんと落ちる。
何だか ほっとする心地良さに包まれた。
いつのまにか高い壁が出来ていると思ってた。
でも、壁を作っていたのは 私の方で
恋次はそんな壁なんて、ひょいと飛び越してくれたんだね。
「遠慮なく? じゃあ本当に遠慮しないけど?」
「あぁ・・」
「まず、恋次」
「ん?」
「顔が怖いよ」
「は?」
「こうやって、眉間に皺よせて 凄い迫力だもん」
「悪かったな、俺はもともとこんな顔なんだ」
「ね、笑って見せて」
「なんだよ、それ」
全身で照れちゃって、でも精一杯に引きつった笑顔を作る恋次。
「こ、こうか?」
何だか可愛くて、愛おしくて 私はつい噴出してしまう。
「笑ったな・・」
「うん、恋次面白いもん」
「カッコイイの間違いだろ?」
「かっこいいよ・・・前から」
途端に顔を赤くする恋次。
「す・・素直じゃねぇか」
今度は私の勝ちかしら?
昔みたいに、ううん、昔とは全く違う私たち。
遠慮なく、こつんと額をくっつけて笑い合った。
「あ〜、じゃ、そろそろ初デート行くか!」
「仕事でしょう?」
「そうとも言うな」
二カッっと笑った恋次の顔は 昔のままで、いや
昔よりももっともっと 優しく見えた。
そして 胸から伝わる恋次の鼓動に顔が緩む。
私の鼓動が恋次の鼓動と重なって
それはそれは楽しそうに動いている。
手を繋いで 扉を開けて いざ現世へ
初デートに繰り出そう
80000打感謝リクエスト・・・葉子様へ
(年上ヒロインで、ヒロインの方が恋次より格上というリクでした)
恋次は気持ちに真っ直ぐなくせに、ここ一番が不器用な可愛い人
そんなイメージだったりします。