妄想ヒーロー
いつもの見慣れた帰り道で
いつもの見慣れた後姿を見つけて、俺の足は駆け出していた。
「よっ!っ!」
ポンッと肩を叩くと、びっくりして振り返る。
「ビックリした〜、もうっ英二〜!」
そのリアクションに満足した俺は
にかっと笑う。
「だって走って来たんだよ?わかるっしょ?普通」
「どうせ鈍いですよ〜だ」
ぶすっと膨れるの顔が、面白くって可愛くって
思わずほっぺをぎゅっと抓った。
「いた〜い、英二のバカ。ガキ」
「逃げるが勝ち!ってね〜」
逃げる俺と
追いかける
あの頃から何ら変わりのない
俺達の関係
とても恋人には見えないよね。
ただの仲のいい友達がじゃれている。
そんな感じ? だけど
それが精一杯の俺の 好きだよの合図。
俺達は幼馴染。
小さい頃からずっと一緒に遊んでて
幼稚園の頃はたしか、一緒にお風呂にも入った仲。
それが今更 恋愛だのなんだの
口に出すのが恥ずかしいというか
もうは俺の中で、既に特別の存在で
愛とか恋とか、そんなもので縛る必要もないと思っていた。
だいたいなぁ
ガキだの子供だのって、俺と同い年のくせに 生意気なんだって
チビのくせにさ
ふと立ち止まるの視線の先に 小さな公園があった。
沢山の木々が公園の半分を占めているような
何の取り得もない感じの・・・
でも、俺達にとっては、懐かしい公園だった。
新しく整備されて、立派な公園になるって、母さんが言ってたっけ。
「この公園、とうとう無くなっちゃうんだね」
「ほんと、寂しいよにゃ〜」
「よく、遊んだよね」
「うん・・・」
公園の時代遅れの遊具は、錆付いて
掘り返された土に隠れてしまっていた。
「どんな公園になるんだろう」
「なんかちょっと寂しいね」
思い出の場所が、こんな風に消えてしまうなんて
寂しそうに呟く。
「無くなってしまったら、大事だったって気づくんだね」
の顔をふと見た。
近くに有り過ぎて、当たり前過ぎて、見落としてしまうもの
俺達は そんな風にならないよね?
そんなの嫌だ、 寂しすぎる。
昨日のことがあって、俺は少しを意識し始めた。
とうとう俺・・・・・告白するべき?
だよね、消えないうちに繋いでおかなくっちゃ。
明日は学校終わるの早いし、の奴、誘って映画でも行くか。
うんとロマンチックなのがいいな
そんで、映画の余韻が残っているうちに言うんだ。
「好きだ」って
あいつ、感激するかも
「英二大好き〜」 なんちゃって。。
ちょっぴりの緊張とウキウキの帰り道。
数メートル先には、いつもどおりのの後姿。
計画実行に胸を弾ませて 俺の足は加速した。
・・・・・・・・はずなのに
間もなく俺の足は止まってしまった。
あの男・・・・誰だ?
あの制服は高等部・・・?
親しげに話しながら 隣を歩いているのは
この先はすぐにの家じゃん。
なんだよ、の奴
楽しそうにしてさ
今日は、俺と映画を観て、それから・・・・
勝手な想像に出来上がっちゃってる俺は
一気に機嫌が悪くなった。
・・・・・・ん?待てよ
冷静に 冷静にと
そういえば、には兄ちゃんがいたっけ。
あぁ、兄ちゃんの友達?
って、の兄ちゃんは? いないじゃん。
何で二人なんだ・・・・・
俺が忙しく心配している間にも
二人は間違いなくの家へ向かってる。
ヤバイんでないの?
ん家は共働きだから
この時間に、家には誰もいないわけで
としたら、とあの男は二人っきり?
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「お兄ちゃんが帰ってくるまで、ここで待っていて下さいね」
そう言って 男を部屋に残し、はキッチンへと行くんだ。
のことだ。気を利かせて紅茶なんか持って行くわけ。
「あの・・・良かったらどうぞ」なんてね
「ありがとう、ちゃん。でも、俺はちゃんを頂きたいな」
おいおいおいおい
「え?あ、、やめて下さい。お兄ちゃんが帰ってきますよ」
「今日はアイツ遅くなるんだ。俺とちゃんの二人しかいないよ」
「え? そんな」
あ〜駄目駄目 〜!!!
俺の存在はぁ〜?
「彼氏がいるとか?」
はい・・・・って言え〜〜
「はい、、、」
やった!
「そんなガキ、ほっといて。俺が大人の恋を教えてあげる」
「きゃ〜!やめて〜」
わーーーーー!!!っ!!
ピンチだ。のピーンチ!
俺の頭の中は忙しい
さっきまで固まっていたぶん、
遠くに行っちゃった二人を、ほぼ全力で追いかける。
「ちょっと待ったぁ〜!!」
ぜえぜえと息を切らして のピンチに立ち向かう。
俺ってヒーローみたい
「な・・・英二?」
振り向いた男の顔は 余裕すら感じた。
「こんにちは」
この野郎! すかした顔で挨拶なんて
今からに何しようとしてたんだっ!
「俺、こいつの彼氏です。だから駄目です!」
「「はぁ?」」・・・・
きゃはははっ
二人して笑ってるけど・・・ え?
「何言ってんの?英二ったら」
「ちゃんの彼氏なんだぁ。僕はちゃんのお兄さんの友達」
「あぁ、、、」わかってる
だからその 留守に・・・あんなことや、こんなことや
「今日はね、お兄ちゃんが風邪でお休みだからって
わざわざ届け物を持って来てくれたんだよ」
可笑しくてたまんないって顔の。
と、ニヤニヤしているその男。
なんだよ、馬鹿にして・・・
「じゃ、家には兄ちゃんいるんだね」
ほっと一安心
「いるよ。あはは・・・英二も来る?」
「うん、行く」
まだ笑ってるを横目に
ちょっと俺、可哀想
だってさ、いつも一緒にいたが
のことなら何でも知ってるつもりの俺が
置いてけぼりくらったみたいでさ。
誰かに取られちゃう?
そんなことチラリとも考えなかったのに
実際 あんなワンシーンだけで
俺はこんなにも 必死で慌てて心配して。
を「誰にも渡すもんか!」
そんなこと思って・・・
「ごめん」
「いいよ。英二。嬉しかったし・・」
そう呟いたに、思わず飛びつくように抱きついた。
「〜〜」
「うわっ!英二ったら」
「いやぁ、最近の中学生には参るねぇ」
そう言って笑うお兄さんの友達に ちょっと感謝。
変な想像してごめんなさい。
と、それは秘密だけどねん。
「ところで、いつから私の彼氏になったのかなぁ?」
「ん〜、たった今から」
昨日からの俺のロマンチックな告白計画は
まったくの無駄に終わった。
でも、これはこれで満足かも。
だって、が楽しそうに笑って
今までに見たこともないような
嬉しそうな顔をしてたから。
あの公園だってさ、消えてしまうんじゃないよね。
新しく生まれ変わるんだ。
思い出は、形なんていらない。
俺との心ん中にあればいい。
そしてどんどん 新しい思い出を作っていけばいいんだ。
それもきっと 楽しい思い出に変わってくから
春になったら、完成したあの公園に行って
また二人でブランコに乗ろうね。
「英二、何してんの? 早くおいでよ」
「ほぉ〜い」
そして俺は、いつだってを守る
ヒーローにだってなれちゃうんだからさ。