意外と純情だったんだ














「そろそろお茶にしない?」 


さっきから手を休めないちゃんに声をかけた。

今日は午後から七緒ちゃんが留守。

何でも女性死神協会の会議の打ち合わせがあるとか。

こっちも暇じゃあ無いんだけど、やちる君には逆らえないからね。

優秀な副隊長が留守で困っているはずの僕は、実はご機嫌だったりする。

だって、七緒ちゃんの穴埋めに来てくれたのがちゃんだから。


彼女は僕の声を聞くと少し笑って、はいと返事をした。

その声がやけに嬉しそうで、僕の顔もほころぶ。

爽やかな5月の風が窓から入ってきて、僕は思わず外を見た。良い天気だ。

そして彼女が居るだけで 部屋の空気はこんなにも柔らかい。












そういえば、こんな風にちゃんと二人きりになるのは久しぶりだ。

机に頬杖をついた格好で、お茶を用意する彼女の横顔を眺めてみる。


ちゃんは最近綺麗になった。こんな言い方じゃ誤解されそうだけど、

元からの可愛らしさに加えて女っぽくなったとでも言えばいいのか。

まるで恋をしてる女の子のそれだ。





ちゃんの髪が、入ってきた風にさらりとなびいて

いつの頃だったか、初めてこの部屋に来た時のことを思い出す。



ピシッとアイロンのかかった死覇装に、キッチリと結上げられた髪。

緊張感からか、僕だけを真っ直ぐに見ていた瞳。

彼女の緊張感と不安を少しでも和らげようと 僕は冗談を言ったっけ。

並んでいたのは確か3人。その時、ちゃんだけが僕の冗談に笑って

その笑顔がとても可愛くて、その日以来ちゃんは僕のお気に入りになった。






「はい。どうぞ」

「あぁ、ありがとう」



ちゃんの煎れてくれるお茶はいつも美味い。

美味いなぁと言うと、彼女は照れたように微笑んだ。

窓の外には四角く切り取ったような 青い空。

甘い和菓子に美味いお茶。 そして僕はいつもどおりに。


けど、どうも彼女の様子が変なことに気がついた。

いつも落ち着いてる彼女には珍しく、ソワソワしているように感じる。

チラチラと僕に視線を寄越しては、目が合うと逸らす。

何かあるんだろうか。

二人っきりのこの状態に緊張してるのかな? それとも








もしかして、やっぱり・・・? そうなのかなぁ








気が付いてしまった僕は、途端にウキウキとしてきて

そこはもう大人の僕が気を遣わなくてはと

あくまでも自然に腰を上げ、ちゃんの真ん前に移動した。

彼女にチャンスを作ってあげなきゃね。

あ、それと小さい声も聞き逃してしまわないように。







「二人っきりだなんて、嬉しいねぇ。こんな事滅多に無いもんねぇ」


と 二人っきり、のところを強調して言う。

あ、はい。そうですねってちゃんはやっぱり意識しちゃって。可愛いなぁ




「せっかくだから、ここだけの話をしようか」

「はい?」


「この際何かとぶっちゃけた話を聞きたいな、と思ってね?」


「・・あ・・」


「何か困ってることは無い?」


「いえ特には。八番隊はとても働きやすくて皆優しくて感謝しています」


「あぁ、そう?」


いやいや、そうじゃないでしょ。ちゃんの言いたい事は


「ならいいけど。今は僕と君、二人、しか居ないんだから遠慮しなくていいよ〜」










そしてふっと訪れる沈黙。

視線を逸らしてやると、彼女は少し思い切ったように、口を開いた。



「隊長・・・」


「うん?何だい?」

来た!


「・・・あの・・えっと」


ほら、ちゃん頑張って!


「あの・・・私」


「はいはい」


「や、やっぱりいいです」

え?


「言いかけて止めるなんて・・・僕、気になって夜も眠れないなぁ」


「そんな・・たいした事じゃないので」


おやおや、たいした事じゃない、だなんて


「本当は大事な話なんだろう?」


「・・・・・」


ほら、どうするの? ちゃん

せっかくのこのチャンスを キミは逃してしまうのかい?





もじもじとするちゃんは凄く可愛くて

けど、あまり意地悪しても可哀相に思えてきた僕は


「いつか聞かせてくれるのを楽しみにしてるよ」




それが大人の男の余裕ってもんだからね。

まぁ少し残念ではあるけれど、何も焦ることは無い。










「では、失礼します」

「うん、お疲れさま。また明日ね」


すっと踵を返して 扉に手をかけ、ちゃんは振り返った。

そしてすぐ後に着いて来ていた僕にしか聞こえないような小さな声で囁くと、

急いでその場から逃げ出してしまった。


パタパタと廊下を走り去る足音が耳に残る。

爽やかな風に彼女の残り香が ふわりと香って軽い眩暈がした。








「好きです」だなんて・・・・






そんなこと、わかってたことなのに



胸がドキドキして倒れそうになってる僕って・・・・








意外と純情だったんだ