報告担当 井上織姫
つい最近まで明るかったこの時間も、今では少し薄暗く。
一人の部屋に帰るのが、なんだか寂しい時がある。
学校は楽しい。お友達もいっぱいいる。毎日充実してるはず、なのに。
たつきちゃんと別れた後、なんとなく寄った公園の片隅で
私は見覚えのある帽子を見つけて、近くまで歩いて行った。
浦原さんはまだ 私に気が付いていないようで
存在すら忘れられているような、古ぼけたベンチに腰掛けて
遠くを見ながらひっそりと、煙草を吹かしていた。
浦原さんには何かとお世話になっているんだけど、実は
二人きりになった事はなくって、この状況に私はちょっと緊張した。
一瞬 声をかけていいものか悩んだけど
このまま無視するのも何だしなぁと 私は声をかけてみた。
「こんばんは、浦原さん」
「おや? 井上サンじゃないっすか」
いつもの明るい声のトーンに安心する。
けど、特に話なんてなく、偶然ですね〜なんて適当な事を言うと
「どうしたんすか? こんな所で」
「あ、ちょっと遠回りしちゃったんです・・・今から帰ろっかなーって」
私はエヘへと 肩を竦めて笑って見せた。
「そうっすか。最近は日が暮れるのも早くなりましたからねぇ。
こんな人気の無い所にいちゃあ危ないっすよ?」
はい・・・と、私はぽりぽりと頭を掻きながら
浦原さんは何してるんですか?とも聞けないでいると
「アタシが婦人会に顔を出すわけにもいきませんからねぇ」
と、浦原さんの視線の先に、空座公民館の灯りが見えた。
あ・・・・奥さん?
浦原さんの奥さん。さんのことは、私もよく知っている。
綺麗で大人の女性って感じなのに、すごく気安くて
いつもニコニコしてる可愛い人。
そうか、浦原さんはさんを待って・・・
それがわかると 私は何だか嬉しくなってきた。
先ほどまでの寂しい気持ちは たちまち姿を消して
いつもの調子が戻ってくるような感じだった。
そんな浦原さんはとても落ち着いた様子で
どっかりとベンチに腰を掛け足を組んで 下には数本の吸殻が。
いつから待っているのか、 いつまで待っているのか
まるでさんを待つことを、楽しんでいるようにも見えた。
浦原さんを見ていたら 私はふっとさんの笑った顔を思い出した。
そしたらまた嬉しくなって
「あの、さんって、ほわわ〜んって感じですよね?」
「ほわわ〜んっすか。そりゃあいい」
「そういう井上サンは、キュルルンって感じっすよ」
キュルルン・・?
アハハ!って思わず私が笑い出した時 浦原さんは
「そうそう、女性はやはり笑顔が一番っすよ。こっちまで嬉しくなる」
チラッと投げられた視線は 心の中を見透かされたようで
私は少しドキッとした。
それから私と浦原さんは他愛も無い話をした。
私の(たぶんくだらない)話にも、浦原さんは始終穏やかに
いつもの冗談なのか本気なのかわからない 軽い口調で応えてくれる。
せっかくだからと、浦原さんも例えてみようと思ったけど
シャキーン?
びろろ〜ん?
カランコロン?(下駄;)
違う違う。困ったことに、ピッタリな言葉は何も思い浮かばなかった。
こうやってお話してると、凄く楽しくて身近に感じるのに
ふとした時の鋭い視線や厳しい台詞は、ちょっぴり怖い時もあって
私にはあまりにも遠いというか、掴みどころがなく。
それでも奥さんといる時の浦原さんは とても優しい目をしてる。
きっと浦原さんって、もの凄く大人で、私にはわからないところで
本当は凄く優しい人なんだろう。
そんなことを思った。
どれぐらい時間が経ったのか、暫くすると
「喜助さぁ〜ん」
通りの向うで手を振るさんの姿が見えた。
「どうやら終わったみたいっすね」
浦原さんはゆっくりとベンチから立ち上がった。
「送っていきましょうか?」
「いえ、大丈夫です。すぐそこですから」
「そうっすか。じゃあ気をつけるンスよ?」
「はい」
「あの・・・ありがとうございました」
そう言ってペコッと頭を下げると
浦原さんは帽子を少しだけ左手で持ち上げて
「井上サン、アナタにもきっと、見つかりますよ」
そう言って見せてくれた笑顔は とても素敵だった。
呆然と立っている私の視界には
さんの元へ歩いて行く浦原さんの後姿と
そんな浦原さんを優しい顔で待つさん。
そしてさんは可愛らしい笑顔で私に会釈すると
二人は手を繋いで帰って行った。
サンを無条件で笑顔にさせているのは
浦原さんなんだ。
そして浦原さんを笑顔にさせるのも
そんなさんの笑顔で。
二人歩いていく後ろ姿を見て
浦原さんもこうして見ると 案外ほわわ〜んかも知れないと思った。
そんな事言ったら また笑われるかなぁ?
つづく・・・
(でろんでろんの間違いじゃ?(笑)