そよそよと風が渡る 村はずれの花畑。

今日も私はコマチちゃんと二人で 村へ持ち帰る花を摘んでいた。

赤、白、桃色、黄色、みるみるうちに綺麗な色で埋まる籠。

空は青く澄んでいる。そして思わずため息を一つ



ちゃん、どうしたですか?さっきからため息ばっかりついてるです」

心配そうに覗き込むコマチちゃんの声に ふと我に返った私は慌てて笑顔を作って見せた。


「そ、そう?ごめんね。何でもないわよ」


ぼーっとした頭で考えていたのは、あの人のこと

一応とぼけて見せたけど、私の様子はこんな小さな子にまで心配をかけてしまっているらしい。

コマチちゃんは未だ納得がいかない顔で、胸の前で腕組をして、うーんうーんと唸っている。




「もしかしてちゃん、恋してるですか?」

「えっ、やだ。そんなんじゃ・・」


「おらにはわかるです。あの恐〜い お侍さまですね」



思いも寄らぬ図星を突かれて 私は吃驚、うろたえた。

しかし、うんうんと自分の台詞に頷くコマチちゃんを前に

もはや言い訳も無駄な気がした私はアッサリと降参する。



「う、ん・・・わかっちゃった?」

「はい、姉さまもそう言ってたです」

あぁ、キララにも悟られていたんだと
自分の取っていた態度に 今更だが後悔するしか無かった。



「好きて言わないですか?」

「まさかそんな・・私なんて」


私の顔を心配そうに見るコマチちゃん。でもすぐに笑顔で


「大丈夫です!ちゃんは、村一番の美人さんです!そう、おっちゃまも言ってたです」


おっちゃま? あぁとあの楽しい機械のお侍さまを思い出す。


「あのお方は優しいから・・」


そう言うとコマチちゃんは 大きな声で嬉しそうに

「そうです。おっちゃまは優しいです。だからコマチ、おっちゃまが大好きです!」


可愛らしくキラキラと顔を輝かせるコマチちゃんが 素直に羨ましく思えた。

けれど私には告白する勇気なんて、これっぽっちも無い。



「大丈夫です!頑張るです!」

「そうね、いつかそんな機会があれば・・・ね」


なんて、思ってもいない事を言い、コマチちゃんを安心させて またため息を吐く。

そんな機会なんてあるわけもない。
























「今日はとっても綺麗なお花があって良かったです」

「ほんとね〜今日は特別の日だ」

籠にいっぱいになった花を眺めては、二人で目を合わせて笑い

私は腕に籠を抱えると、コマチちゃんと手を繋いで村まで戻った。


真っ先に長老の家へその花を届け
そして私はいつものように、お侍様たちの集う部屋へと向かった。

昼間、お侍様達はそれぞれに村の為に働いて下さっている。

そんなわけで誰もいないこの部屋はしんと静まり返っていた。

簡単に掃除をし、いつものように窓際に花を生けようと 花瓶を手にした時だった。




背後に人の気配がして、振り向くとそこにはキュウゾウ様の姿が


「お主・・・・だったのか」


私の心臓はたちまち速度をあげ、キュウゾウ様の一言が理解できない。


「キュウゾウ様・・・どうして此処へ?」


「姿が・・見えた」



私の姿を見つけて、部屋まで戻って来たというのだろうか・・・

何か不味い事でもあるのだろうかと私の心臓の音はより一層早くなる。



「あの、すみません。ここの掃除を任せられているもので」


「そうではない・・・花だ」


キュウゾウ様の視線は私の手にある花へ向けられている。


そういえば、お侍様達の部屋の掃除を任されたとはいえ、勝手に花を飾ったりして

カンベエ様からは いつもすまないと

シチロージ様もゴロベエ様も、心が和みますなぁと仰ってくれた。

勿論ヘイハチ様もキクチヨ様も喜んで・・・・

けれどよく考えたら、キュウゾウ様からそんな言葉は無い、というかいつも姿は無く

もしかしたらこんな女々しいことが、お嫌いなのかも知れない。

そんな事を一瞬にして考えた私は どうしようもなく焦ってしまった。



「すみません・・皆さんの癒しになればと勝手に・・」




思わず手にあった花を後ろ手に隠すようにすると

キュウゾウ様はこちらに近寄ってきて、私の腕をそっと握った。

突然の事にドギドキするしか無い私。 キュウゾウ様は私の持っていた花を数本奪い

その細く長い指をすっと私の胸元へ、花は私の襟元へ差し込まれた。

当然のように赤くなる頬、キュウゾウ様の指が一瞬触れた肌が熱を持ったように熱くなる。



「こんなむさ苦しい部屋より、花も喜ぶ」



その言葉の意味をどうとっていいのかわから無いが、とりあえずお礼をと思っていると 

キュウゾウ様はくるっと後ろを向き


「・・すまぬ。勝手は俺だ」と 言い捨てた。

顔を背けたまま、まるで私の次の言葉を待っているように。


まだあやふやだが 私に好意を持ってくれていると信じたい。嬉しい

そしてさっきの花畑でのコマチちゃんとの会話がたちまち甦り、私を急かした。

キュウゾウ様と二人きりのこの機会を 逃しては駄目なような気がして




「あの、キュウゾウ様・・・・私」


なんだ?と言う替わりに視線だけを注がれ

その赤みを帯びた目の奥が優しい色をしていることに気付いたから
私は気持ちを言葉にのせる。


「お、・・お慕いしております」

そう一言投げるように言い放ち、たまらなくなって「ごめんなさい」と俯くと


「何故謝る・・・俺もだ」

と、すんなり帰って来た台詞に 対応しきれない体はふるふると震えた。


二人で向き合ったまま、見つめ合い。胸に飾られた花が静かに揺れる。

まるでそのまま時間が止まったかのように感じた。















その後、私がコマチちゃんとキララの元へ 高鳴る胸のまま駆け込んだのは言うまでもない。

そして私はあの日以来、皆の部屋に花を飾るのは辞めることになった。

それはキュウゾウ様が「明日からは、俺だけにしろ」そう仰ったから。

意外にも独占欲の強い彼を思い出しては、顔が緩む

その気持ちが嬉しくてたまらない。


明日からはキュウゾウ様のためだけに


愛しい君に花を