目が覚めたら一人だった。


隣に手を伸ばしてみると、蒲団は既に冷え切っていて、随分と前から彼がいなかったことを証明していた。
どうやら私は寝坊してしまったらしい。
部屋の中は既に明るい光に包まれていて、どこかで鳥の鳴く声がする。
のっそりと蒲団から出ると、私はそのままの格好で土間に下りて釜に火を入れ
ようとしたら、お米が一粒も無いことに気が付いた。


あ〜そういえば、と昨日の晩のことを思い出す。











「もーそんなに沢山食べたら、明日の分が無くなるってば」

「いいっていいって」

「良くないよ。もうちょっと計画的にさー 」「もーらいっ」

「あーそれ私の、もうっ!」


いつのまにか張り合うようにして、今日の食料まで食べ尽くしちゃったんだっけ。
はぁと小さく溜息を吐く。そして今、アイツが留守なことにちょっぴりの期待。



お米が無いのだから、ご飯の支度をする必要もない。
私は洗濯をすることにした。今日はとっても良い天気だ。
二人分の数枚の洗濯はすぐに終わり、籠を抱えて外に出た。

草と土が日に暖められて、ふんわりといい匂いがする。

風が柔らかい ・・・ もう春が近いのだ。



私はうーんと背伸びをして そのまま空を仰いだ。
抜けるような青の中、洗濯物も気持ち良さそうに揺れている。


あの雲・・お団子に似てる
あれはそうねぇ、お握りかなぁ
と、そんな事を思うとお腹がぐーと鳴った。



いったいどこまで行ったんだろう ・・・あのバカ








私は特にする事も無くなって、目の前にあった岩に腰掛けた。
足をぶらぶらさせながら、相変らずの空を見ていたら、向うの方に赤いものがチラチラと見え始めた。
あの特徴のある歩き方、間違いなく彼だ。






「ムーゲーンー! お帰り〜」

「おぅ〜」


片手を挙げて返事をする彼。だらだらと歩いてる姿に痺れを切らして、駆け出す私
第一声は勿論これだ


「ね、お土産は何?」 

「土産? なんだそりゃ」


「食料の調達に行ってたんじゃなかったの?」



見れば彼の両手は空っぽで、じっとりと見つめる私と目が合った彼は、ポリポリと顎を掻いてみせた。

朝から出掛けてるから、何か持って帰ってくれると期待してたのに。
昨日の晩、「俺に任せとけ」なんて言ったのは誰だったっけ?


「なーんだ、期待してたのに」


頬を膨らませて ぷいっと背を向ければ、すかさず私の肩を抱くムゲン。
ご機嫌取りのつもりかしら。
払いのけようとしてふと見ると、胸の前に回された彼の腕に血が滲んでるのを見つけた。


「やだ。どうしたの?コレ」

「あー これな、勝者の勲章だ」


「は?」










彼の話はこうだった。食料を探して山奥に入って行ったら熊に遭ったと。


「だいたい村じゃなくて山奥に行くってのがどうかと思う」
「うっせーなー。金がねぇだろうがよー。金が」
「あ・・・そうだったね」
「バーカ」


熊に脅されて身の危険を感じた彼は、勇敢に熊に立ち向かったと。


「ってゆーか、脅したのはムゲンの方なんじゃない?」
「んなわけねーだろ? んがーーってな、大口開けたんだって」
「・・・ふ〜ん」


決死の格闘の末(長いから中略)、熊は逃げ出し、勝者ムゲン。そしてこの勲章。と、そんな話。


得意気に話す彼を見て、猿のように飛び跳ねては嬉しそうに、暴れているその様子が目に浮かんだ。
きっと食料のことなんてスッカリ忘れていたんだろう。
な、俺ってすげーだろ?と言う彼に、へぇへぇと適当に相槌をうつ。



そんな熊と格闘してる暇があるなら、山菜ぐらい取って来て欲しかったものだ。
けれども、こうして言い合っている間にも、私のお腹はまた鳴り出す。

もうこうなったら最後の手段だ。
私のとっておきの干し芋を出すしか無い。


ムゲンの手を振り払うと、私はズカズカと部屋に上がり、箪笥の横の隙間に手を伸ばした。
私の秘密の干し芋は、その隙間の籠に隠してあるからだ。
横取りされちゃ困ると、奥のほうに突っ込んだのが災いして なかなか手が届かない。


私は床に這い蹲るようにして、一生懸命に手を伸ばした。と・・・





「食いモンみーっけ!」



ムゲンはいきなり私の腰を両手でむんずと掴み
そのままお腹に腕を回すと 私の腰にしがみ着いてきた。
ふんふんと鼻息を荒くしてる。


「なっ!ムゲン邪魔!やめてー」

「ダーメだ! 俺の食いモン」

「わ、私は食べ物じゃないの!」


「うまそーだぞぉ? 決めた俺、を食う。だからお前は俺を食え」


ニヤリと笑った口角は耳の辺りまで上を向き その目が少し光って見えた。

ヤバイ、この顔は本気だ。





「や、もう! 待ってったら!」



「待てねぇぇぇー」







言うが早いかあのバカは、私にガバッと覆いかぶさってきた。

がくんとムゲンの体重がかかり、思わず漏れた声
その声に反応した彼はサッサと服を脱ぎ捨てる
私は本当に食べられそうな勢いで 唇を塞がれた
一応バタバタと抵抗してみたが、か弱い私がこんな野蛮人に敵うわけもなく・・・・
















***



















外では相変らずの鳥の声、お日様も律儀に部屋を照らしてる。

私たちは少し汗が滲んだ体をそのままに、板間に寝転がったまま
二人してぼけっと外を眺めてた。

朝っぱらから何してるんだろうね、私たち
お腹空いてるのに、もっとお腹の空くことなんてしてさ。



「お腹空いたね・・・ムゲン」

「だな〜」














ガサッガサガサッ!!




飛び起きたムゲンに驚いて、つられるように音のした方に視線をやる





あ!!  

「「鶏ーー!」」






「ちょっ!ムゲン」

私の声よりも早く 飛び出したムゲン(この野生児め)
疾風のように駆けて行き、見る見るうちに小さくなるその背中。
彼はこっちを振り向くと、高々とピースサインをしてみせた。片手には鶏。
その得意そうな顔ったら! 私は思わず声を出して笑う。



ムゲンのあの顔は大好きだ。だけど・・・




今、私の目の前に脱ぎ捨ててあるのは 確かにムゲンの着物。
草がちょうど腰の辺りを隠してここからは見えないけれど
やはりあそこにいる彼は 素っ裸なわけだ。
















青空を背に、一糸も纏わない彼の姿は、まるで太陽のように輝いて見えた。












突き抜けるように青い空

爽やかな風が吹く











本日も晴天なり!