本日の担当   















初夏の匂いを含んだ温い風、最近は陽も少し長くなりましたね。



先日の話ですが、喜助さんも帰宅した夕時のこと。

台所で料理の仕上げに取り掛かっていると、玄関のチャイムが鳴り

扉を開けてみるとそこには、可愛いお客さんが立っていました。





「あらいらっしゃい、雨ちゃん」


「こ、こんばんは、さん。あの・・・」



少し赤い顔をして、手には小さな風呂敷包み。



「あの・・・これ・・・キスケさんに」



そう言って手渡された包みは温かく

少し広げてみると、中にはプラスチックの容器が・・


どうやら中にはお惣菜が入っているようでした。




「この間、さんに教えてもらったとおり、やってみたんですけど」


と、小さな声に私はふと、数日前の事を思い出しました。













------ 後は煮込んで、お芋がほっこり柔らかくなったら火を止めてね。 

------ は、はい。

------ 少し時間を置くと、余熱で味が染みこんで美味しくなるのよ。

------ えっと、少し置くんですね。


懸命にメモを取るウルルちゃんに、私は


「雨ちゃん、偉いわぁ。もう料理を作ろうなんて。さすがは女の子ねぇ」


すると雨ちゃんは、呟くような小さな声で



「いいえ、あの・・・これぐらいしか、出来ないかなと思って・・・」



「ん?もしかして、誰かに作ってあげるのかしら?」



途端に雨ちゃんは、真っ赤になって俯いてしまい

あまり聞き出すのも悪いかと、その時は聞かずにいたんですが。





雨ちゃん ・・・・・ 



喜助さんに ・・・・・







「じゃあ、さよなら」と帰ろうとする雨ちゃんを、私は咄嗟に引き止めました。


「雨ちゃん、食事まだでしょう? せっかくだから、家で食べて行って?」


「でも・・・あのぉ」


「大丈夫。テッサイさんには電話しておくわ。喜助さんも喜ぶから、ね?」
























雨ちゃんと私。

二人で居間の円卓に料理を運ぶ姿を、喜助さんは満足気に眺め


「いやぁ、女性二人に囲まれて食事ってのも、いいもんッスねぇ」と


そして三人で食卓を囲み、「いただきます」をすると

喜助さんは更に上機嫌な様子でした。



私は早速喜助さんの真ん前に、自慢げに雨ちゃんの手料理を置くと




「これ、雨ちゃんお手製ですって」


「ウルルが? へぇ〜そりゃ凄い」


とすぐさま箸を付け・・・・ なんだか私までドキドキとしたものです。




喜助さんは一口食べるとすぐに


「うん、おいしいよ」 


と雨ちゃんに笑顔を向け



それまで緊張していた雨ちゃんの顔は

途端にパアッと花が咲いたように明るくなり


私はほっと胸を撫で下ろしました。






と、言うのも・・・



実は食卓に並べる前に、こっそりと味見をしていたからなんです。


いえ、初めて料理を作ったわけだし

その初めての手料理が、手の込んだ肉じゃがだなんて

出来がどうのというより、凄いことだと思いますよ?









「たいしたもんだ。見直したよ。ウルル」



喜助さんに褒められて、モジモジとする雨ちゃんの可愛らしいこと。


そしてようやく緊張が取れたのか、やっと自分でも料理を口にし

雨ちゃんは遠慮がちに一言、呟きました。




「あの、、、本当においしい、ですか?」





「勿論!ウルルがアタシの為に作ったものが、美味しくないわけないでしょう?」




と、喜助さんは優しく微笑んで

そしてあっという間に平らげてしまいました。


















楽しい食事も終わり。

何度も振り返りながら手を振るウルルちゃんを見送った後のこと。














「喜助さん、雨ちゃんとっても嬉しそうでしたね」



「うん。 ・・・で、あの料理、何だったんスかねぇ」


「え? やだ。肉じゃが、ですよ?」


「あ〜〜 肉じゃが・・・ね」




と、頭を掻きながら、ゆるゆると居間へ行く喜助さんを見て

私は思わず くすっと笑ってしまいました。



それから洗い物を済ませ、お茶を二つ持って居間に行くと

喜助さんは庭を眺めながら煙草を吸っていました。


私が隣に腰を下ろすと、白い煙をゆっくりと吐き出しながら





「ねぇ、?」


「なぁに?」




「もしかしてウルルはアタシに対して

淡い恋心みたいなものを抱いているんスかねぇ」



「こ、恋心?」



「ほら、思春期の女学生が、教師に抱く憧れのようなものって意味」



「んもぅ!喜助さんったら」



「はは、冗談っすよ。やきもち妬かな〜い」



ぎゅうと抱しめられると、頭の上で喜助さんが小さく笑った気がしました。







喜助さんの嬉しさが、そこから流れてくるように

私の胸の中も ほんわりと温かくなっていました。






幸せそうに目を細めた喜助さんを見て

心の中で、雨ちゃんにありがとうを言ったものです。

















だからやっぱり・・・
















あの日が実は ”父の日”だったという事は



このまま黙っていようと思うのです。



























つづく・・・


(一番可愛いのは誰っ!)