「ねぇ、サン。これ・・何て書いてあるんでしょ?」






さっきから雑誌に夢中になってる彼女に、唐突に声をかけた。

適当に渡した雑誌。それに温泉特集がのっていたのが 彼女を無口にさせたらしい。


サンは顔を上げて、こちらにずるずると体を寄せてきた。

そこでアタシは読んでいた新聞をサンの前に広げ

適当なところを指さして言う。




「字が小さくてよく見えないンスよ」


「やだぁ、喜助さん。老眼とか言わないでね」



くすくすと笑うサン つられるように自分も笑う。

どれ?と、手元を覗き込むサンを 頭の上から眺めた。

畳に両手を着いて、足を斜めに投げ出して

さらりと肩から滑り落ちた一筋の髪は柔らかそうで

微かに香る サンの匂い



その眺めがすごく良かったから

あれどこだっけ?なんて適当な台詞を吐いて その姿勢を保たせた。

返事をするたびに可愛らしく動く小さな唇を見ていたら

どうしても触れたくなって 片手でサンの顎を持ち上げ

そっと口付けを落とした。

ほんの少しの間の 触れるだけのソレ・・・



なのに、目を開けてみると目の前に映るサンの頬は桜色に染まっている。

そしてアタシの熱い視線は 一瞬で交わされた。

そっぽを向いたサンの顔をまたグイッと自分に向けさせる。








「こっち見て」


「・・・・」


目は合わせてくれたものの、不自然に瞬きの多くなる瞳はまた逃げる。




サン・・・」



「あっ、あの・・し、新聞。読み終わったの?」


「いいえ、まだ・・」


「読みたいから私に雑誌を渡したんでしょう?」


「もう、いいんすよ」



サンが傍にいたら、どうでも良くなっちゃいました」




サンの返事は待たずに もう一度その唇に触れた。

今度は少し硬くなる彼女の体に 苦笑いがこぼれる。







「もしかして緊張してるんッスか?」


「・・・・だって」


「キスで・・・? 別に初めてでもないでしょうに」



「・・・・・」

ますます顔を赤くして、俯くサン

体に触れてもいないのに、彼女のその胸の鼓動が聞こえてきそうだ。



「そろそろ慣れてもらわないと・・・」


「・・・・・」


「いずれは、もっと凄いことするつもりなンスけどね」




よほど恥ずかしかったのか、アタシの胸をどんと叩くサン。

その仕草すらも愛おしくて、喉の奥でクックッと笑った。





「もう、喜助さん・・・いやらしい」

「やらしいだなんて、酷いなぁ」


「だって・・・」


「愛してるから、じゃないっすか」

「調子いいなぁ・・」


「それともサンは、アタシのこと愛してないと?」

「あ、あああ・・・」


「ん?」


「愛してる、けど」



「けど?アタシにはあげないって?」


「そうじゃない。あげるあげる」


言うなり自分の口を手で覆い、慌てて否定する。

誘導尋問だとか喜助さんの馬鹿とか、散々文句を言ったあと

不満そうに見つめるアタシの表情に気付いて


「いずれね・・・」と俯きながら 小さな声で言い足した。






この人は どうしてこうもアタシの心を掴むのが上手いんだろう。

そんな素直なところがまた、アタシを煽ってるって気付いてます?

アタシの台詞や仕草に 響くように反応して

ころころと表情を変えてくれるサンが愛しくてたまらない。


















もっと困って悩んで、そして笑って


サンの全てが アタシでいっぱいになればいい


だってキミの全ては アタシのものなんだから











可愛いひと























リクエストで書かせていただきました。