私 恋をしてる。  なんだか嬉しくてたまらない







キラ キラ










顔を上げ、辺りをぐるっと見回せば 煌びやかな色、色、色
お酒と香水が混じったような甘い香りと、むっとするような熱気。
天井には万華鏡のように光る球体が、せわしなく回っている。
ズンズンと頭の芯まで届く音は 内臓まで響き
リズムに合わせて 人だかりが揺れる。


一体ここは何処なんだろう













「気付いたか?」

耳元で聞きなれた声が響く。それはあまりにも近くて
息がふっと耳にかかったから、びくんと肩が上がった。



「ひゃ!? あ・・・ムゲン?」


「いきなり眠っちまってたぜ? ったくよぉ」


ムゲンの顔と音楽と、目の前にあるお酒の入ったグラス。
これだけ条件が揃えば、私のさっきまでの記憶は、簡単に蘇る。

私の頭を小突く彼の手を そっと払う
頭はぼーっとしてるけど、思い出したんだから。
だいたい私がお酒は弱いんだって言ったら、面白がって飲ませたのはこの男だ。
一言文句でも言ってやろうとしたら、ムゲンはのっそりと立ち上がった。

「待っとけよ。水持ってくる」


そんな事を言われては、口まで出かけた文句なんて消え去ってしまう。
ダラダラと歩く後姿は、彼もまた酔っているのか、心なしか千鳥足だ。
チラリ見せる優しさに、ズルイなんて思う。










くるくると回るミラーボールを、口を半開きにして見上げた。

内臓がひっくり返りそうな音楽は続く

フウちゃんもジンも、何処にいるんだろう・・・
辺りをキョロキョロと見回すけど、薄暗くてよくわからない。
するといきなり目の前は暗くなり 私の視界を遮るように男が立っていた。
見るからにチャラチャラした派手な服装。ニヤニヤしてる。

そいつは私を覗き込むようにして、顔を近づけてくると



「か〜わい〜い!」


「・・・・。」

「なぁ姉ちゃん、ここはダンスホールだぜ?座ってないで俺と踊ろうや」


親指を立てて、ウィンク・・あぁ眩暈がする。何なのよこの人


「いや、あの・・私は」

「アレ?酔っ払ってんの? じゃあ俺、介抱してやろっかなー」


その男はぐいと近付くと、テーブル越しに私の肩に手を乗せた。

「やめて・・」

「ん? なに?聞こえないなぁ〜」


肩を掴まれたまま、ずいずいと顔を近づけるもんだから
酒臭い息が顔にかかって 思わず顔を背けた。







「何やってんだ、てめぇ」

いつの間にかその男の真後ろに 般若顔のムゲンがいた。
振り返った男の頭に、持っていたコップを勢いよく逆さまにしてる。



「コイツは俺のツレなんだよ」


一瞬顔色が変わった男は、何やら叫びながら咄嗟にムゲンの胸ぐらを掴む。

「やんのか? オィ。上等じゃねーか」

キラリとムゲンの目が光って、男はその手を・・・・離した。

ナンパ男はいきなり態度を変え、ペコペコと頭を下げながら逃げて行く。
意外と状況判断のできる奴で助かったと思う。
こんなところでまた騒ぎをおこされたんじゃ 敵わないもの。


フンと鼻を鳴らして、隣に腰掛けるムゲン
目の前で起こったお助け劇に、少し感動なんてしてたのに

「ぼけーっとしてんじゃねぇよ。バカ」

私まで怒られて、ありがとう を言い損ねてしまった。





せっかく持ってきた水を、ナンパ男の頭にぶっ掛けたもんだから
ムゲンはまた、水を取りに行くはめになった。
勿論、一人にしておけるかってことで、今度は私も一緒だ。
逸れないように手を繋いで、ドリンクコーナーまで突き進む
ずんずんと人を掻き分けそこに着くと、もう一人の彼を発見した。


「あ、ジン」

。もう大丈夫なのか?」

「うん」

「まさか、寝てしまうとは思わなくてな。すまん」

「ううん、いいの。飲ませたのはムゲンなんだし。ちょっと寝たらスッキリよ」

ジンは、そうか と呟いたように見えたけど、音楽が大きすぎて聞こえない。
見ると彼の手には氷入りの水。どうやらジンも酔いを醒ましに来た様子だ。


「まさか、こんな所とは思わなかったね」

「あぁ、食べ放題飲み放題に釣られたのが、間違いだったようだ」



そう、私達(というか、ジンとムゲン)は町で人助けをして
お礼にと貰った招待状。確かに怪しげなチケットではあったが
何よりお腹が空いていた私達は、駆け込むようにしてこの店に飛び込んだのだ。



「そういえば、フウちゃんは?」

「あそこで飯を食っている」

「え? どこ?」


と、ジンの指差した方を向くと、バイキング料理が並べられたテーブルの前に
お皿を片手に立ったまま、料理を口に運び続ける丸々とした女の子がいた。


「ありゃ化けモンだからな。近付いたら潰されっぞ〜」

「うむ・・・」

豪快に笑い飛ばすムゲンに苦笑いを浮かべるジン、二人につられ私も笑った。



酔いも醒め、音楽も慣れてくると 案外気持ちが良いものだ。
自然と体がリズムを取りだし、いつもより声も大きくなる。
踊っちゃおうか、どうしようか、なんて考えていると
プツンと音楽が止まり、キーンという音が耳をついた。






「レディース&ジェントルマン!」





店内に響き渡る声。マイクを持った男が中央の台の上に立っている。



「楽しんでますかー? 踊り狂ってますかーぁ?」


 「「「イェーーーイ!!!!」」

その場にいる人たちが叫ぶ。ついでに私も控えめに片手を上げた。


「OKOK〜!それでは今宵のナンバー1カップルに、ステージに上がってもらいましょう」

「我こそはと思う恋人達は、どうぞー!」


誰だ誰だと騒ぎ出す人たち、顔を見合わせ手を取り合ってステージに向かうカップル
店内はたちまちごった返す。


「おい、。俺達が呼ばれてるぜ」

「ん?」

首を傾げる私を、半ば抱きかかえるようにして・・・・
その人混みを豪快に通り抜け、気が付けば私は、ムゲンと二人でステージの上に立っていた。


赤や黄色の光が波打つように、揺らめき、音楽も流れ出す。
スポットライトが当たると、ムゲンは私と繋いだ手を頭上高く上げ
「イッチバーン!」 
なんて言って、滅茶苦茶なステップを踏み出した。



会場は大爆笑

ヒューヒューと鳴り響く 口笛 
音楽のテンポは早くなり、会場の熱気もムンと上がる
誰もが皆 体を揺らしステップを踏んで 踊る、踊る

盛り上がりは最高潮

ステージなんてもう関係ない

上がりこんだ人達でいっぱいになったステージから降り
胸を抑えて座っているフウちゃんを見つけて走り寄る。


「フウちゃんも踊ろうよ」

「あ、待ってさん。吐きそう〜」


その様子に笑いながら横目に見ると、人混みに紛れてジンまでもが、体を揺らしている。

それは盆踊りとしかいえないものだったけど
ムゲンのそれよりは マシだと思う。


音楽に飲まれて 魔法がかかったように踊る人達
その中心で踊る私とムゲン
天井のミラーボールはぐるぐると回る


「きゃっ」  
途中誰かのお尻に突き飛ばされてよろめくと
目の前にあった腕がさっと伸びてきて、私を抱きとめた。
ごめん、と言おうと思ったのに、その腕は力を入れてきて離してくれない。

顔を上げると目が合ったムゲンが 凄くカッコよく笑ったから
ドキドキした私は、慌てて彼の胸を押した。
けど、そんなささやかな抵抗は意味も無く、更にぎゅうぎゅうと 抱しめられて

顔どころか体までも火がついたように熱くなる。










ぐるりぐるりと天井が回る。かかとを上げ、ステップは軽く 

たまに盆踊りも混ぜながら 私たちは踊った。

笑い声も話し声もすべてリズムにのって

どんな夢も叶いそう、そんな不思議なエネルギーが満ちていた

踊ろう 手を繋いで もっとそう強く抱いて。ドキドキで苦しくなるぐらい

目が合って、私が笑うとあなたも笑う。それがこんなにも嬉しいなんて






魔法がかかったように笑い踊る 夢のような夜の話。