「私達もう、終わりにしよう?」

「今日は、気分じゃないの?」

「ううん、・・・私達の関係の方」

「・・・・・・」








「・・・がそれでいいなら」



自分で言い出したくせに


清純の口から、その言葉が出た瞬間


私は思わず涙がこぼれた。


そして急いで服を着替える清純に


私の恋は 粉々に砕けた。


























あれから1年が経ったなんて、時の流れは早すぎる。


1年前のあの日


渡せなかったチョコレートは

まだ私の部屋にある。



清純と別れてからの私は

自分の部屋に帰るのが、とにかく嫌になった。

だけど、そういう訳にもいかず

とりあえず清純の匂いのするものは、全て取り替えた。


清純が使っていたマグカップ

清純が気に入っていたビーズのクッション

枕カバーもシーツも

ほんの数枚しかない二人の写真は ロッカーの奥に


ただ、一つだけ


捨てられなかったのは、あの日に買った


清純へのチョコレート






馬鹿みたい








思えば私は、清純と出会ってからずっと、後悔していた。


まさか、こんな気持ちになるなんて、思っていなかったから。













初めて清純に会った日、あなたは今にも壊れそうで


雨に濡れて震えている、捨て犬みたいだった。


まるで私に助けを求めているような、眼差しで


「お姉さん、俺と遊んでくれない?」


私は瞬間、心を持って行かれたような気がした。



何よりも先に、体の関係を持ってしまったら

彼の恋人になるなんてことは、有りえないだろう。

しっとりと雨に濡れて、力の無い瞳でゆっくりと喋る彼が

すごく色っぽくて悲しい。


先の見える私たちの関係に

こんな出会いを悔やんだりしたけど


それでもいい


彼を救ってあげたい


どう見ても年下の彼に、私は精一杯年上ぶった。


そして

それきりのはずの清純が、再び私の前に現れた時


私は自分の中にある 恋心に気づいた。



そんな自分が愚かで、惨めだった。




この人は、私なんかにつまずいてはいけない。


もっと年相応の 素敵な出会いがあるはず


私の清純への気持ちは、悟られてはいけない。


そんな変な感情にとらわれて

その愚かな恋心を封印したんだ。







ただ、 清純を守りたかったから








でも、清純にあんな辛そうな顔させるぐらいなら

私はもう必要じゃない。

そうだよね?

















清純との思い出は、沢山あるはずなのに

悲しいことに私は

出会った日と別れた日

そのふたつだけ、鮮明に心に刻まれたまま

この1年間縛られていた。






清純 今頃どうしてるのかな?

新しい彼女と 幸せにしているのかな?


まさか、私が今でもこんな気持ちでいるなんて


彼は知るわけもない。











そして今日も私は一人で、部屋に帰る。


当たり前だけど、誰もいない部屋は何だか冷たくて

もう慣れたはずなのに

清純のことなんて思い出すのは

バレンタインだったからかな?笑っちゃう




行く宛ての無くなった期限切れのチョコレートが

まるで私に同情しているかのように見えた。



こんなもの持ってるから

清純から卒業できないのかな


私は部屋の片隅にあるゴミ箱へ視線を移した。





今度こそ本当に・・・・


さよならだね、清純





































その時携帯から、有り得ない着信音がして


私は自分の耳を疑った。



それは懐かしい 清純専用の着音で


前に清純が、「この曲好きなんだよね。」


そう言っていたから、こっそりと私が設定していた曲

















高鳴る鼓動で胸が痛い



頭の先からつま先まで、一気に血が巡っていく



体が熱い


押さえ切れない感情が溢れ出す














私は震える手で ボタンを押した。





・・・・・はい



・・・・・えっと、俺。清純だけど。わかるかな?


懐かしい声


愛しい声


今にも倒れそうな眩暈を感じながら

電話ごと抱きしめたい衝動にかられる。



・・・・・? だよね?



・・・・・うん。



泣いてるの? 



携帯からかすかに聞こえるのは


の力の無い 嗚咽



・・・・何かあったのかい?


・・・・きよ・・すみ・・


彼女の声は 震えていた。


何がなんだか、わけわからないけど

俺が電話したことで を泣かせたに違いない。



何やってんだ、俺


また彼女を傷つけて


だけどもう後悔はしたくない



俺の気持ちは既に走り出していた。




・・・・・今、どこにいる?


・・・・部屋


・・・・待ってて。すぐに行くからね







懐かしい階段を上り

懐かしいドアを開け

懐かしい匂いのする部屋へと入る。


はベッドの脇にいて、膝を抱えて俯いている。


だけど、顔を上げようともしなかった。





ってこんなに小さかったっけ


こんなに壊れそうに震えるんだっけ













ごめんね・・・



何よりも先に謝りたかったのに


言葉にはならず




ふと見ると、床に可愛くラッピングされた

チョコらしき箱がある

俺は何となくその箱を手に取った。






「それ・・・もう、食べられないよ」

呟くような声

「バレンタインチョコ? 誰かにあげるんだったの?」

「・・・・・・」



そうだ。はきっとその男に振られて


俺が電話してきたもんだから、つい泣いちゃったんだろう。






がゆっくりと顔を上げた



「だって、それ1年前のチョコレートだもん」







1年前のバレンタイン?






俺達が別れた日だ。




あの時の俺は、からチョコがもらえないのに

苛々してて

ぶつけたのは自分の感情だけ


の本心を理解する術も持ち合わせていなかった。






俺の手からチョコが離れ


ことり・・・・


床に落ちる音がした。







「どうしたらいい?」


「え?」


を傷つけた、この埋め合わせはどうしたら」


「もう昔の話だよ」




「昔話じゃないよ。俺はこの1年間、一度ものことを
想わない日はなかったんだから」













静か過ぎるほどの沈黙だった。







ただ、聞こえるのは外を走る車の音と

時計の針が動く音











「清純が、本気で好きだった」





そうポツリと呟いて





が泣いた






そして俺も
















「清純、ごめんね」



「いや、謝るのは俺のほう」



「抱きしめて欲しいの。それだけでいいから」



初めて会った日、が俺を救ってくれたように


今度は俺が、を救ってあげたい。


それが俺を救うことでもあるんだから。








期限切れのチョコレートはゴミ箱へ





”好きだった”って過去形は正しいと思うんだ。



あの頃とは違う、もっと大人になった俺達は




今から本当の恋をする


今度こそ本物の恋人になる

そして

1年前のあの日をリセットしようよ。





前よりいくらか痩せたの体を


大事に胸に抱き寄せて包み込んだ。



1年分の想いを埋め尽くすように




力強く、もう二度と離れないように




ただ抱き合う













何度も交わす口付けは チョコレートよりも甘く





それはあの快楽よりも、もっともっと気持ちがよくて



満ち足りたものだった。





















END