報告担当 黒崎一護
あれは忘れもしない真夏のある日。
浦原商店の中の左端。
一段高い位置にある薄い座布団の上で、俺は頭を抱えていた。
---- いやね、夫婦で結婚式に出席しなくちゃいけないんすよ。
---- こんな大事なことを頼めるのは、黒崎サンだけっす。
---- まぁまぁ、そう言わないで。アルバイト代、はずみますから!
あの時のアイツの台詞が 何度も繰り返し頭の中を過ぎって
そしてとどめがこれだ。
---- 黒崎くん、これをどうぞ。
さんが嬉しそうに差し出した、風呂敷包み。
やけに大きいその包みを開こうとした途端
「あぁ、それを着て店に出て下さい。採用条件ですから必ず、ッスよ」
と言ったアイツの声は、低く強く、そして目はマジだった。
外では油蝉の鳴く声。
かなり暑いってのに店内には年代物の扇風機が一つ。
アイツよくこんな格好してんな。
つか、冬もコレだったよな。ある意味すげーよ。
じわっと流れる汗に、持たされた例の扇子をフル活動させていたんだ。
「こう暑いとお客さんも少ないですな一護殿、いや、て、店長・・・」
普段冷静なテッサイさんの声が 上ずっている。
雨まで、なるべく俺と目を合わさないようにして
掃除しながらも、背中が微かに震えてるっつーのが
余計に俺のせつなさを募らせるんだけど。
それにしてもジン太のヤローにはムカつくぜ。
用も無いくせに チラチラ覗いては、思いっきり「ブファー!」と噴出しやがって。
もうこうなったらヤケだ。
一日店長を全うしてやろうじゃねぇか!
と、いきり立ったものの、客なんてちっとも来やしねぇ。
なんだよ、暇だなぁ。
ホントにやっていけんのか? この店〜
とりあえずは商品の整理でもすっか、と
何度も来てるわりには、よく知りもしなかった陳列棚へ手を伸ばした。
まぁ、普通に雑貨とか駄菓子とか・・・
と、ふと目に付いた箱に手を伸ばすと
「む!一護殿、いや店長。そこは開けてはなりませぬぞ」
あ、怪しい・・・・ま、別に興味ねえからいいけど。
じゃあ、ともう一つの箱に手を伸ばすと
「一護殿ぉぉ!!いや店長。そこは私がやりますゆえ」
怪しすぎる・・・・なんだってんだ、この店は。
すると明らかに不貞腐れてる俺を見かねてか
「では、これを倉庫へ持って行って頂きましょう」
テッサイさんはそう言うと 俺をその倉庫とやらへ連れて行き
「くれぐれも、迷子にならぬよう・・・」
そう意味深な台詞を残したまま、しずしずと襖を閉めたんだ。
迷子だなんて大袈裟だよなぁ。
だいたいこんな狭い家の中で・・・子供じゃねぇんだし
とは思ったけど ―
一体何なんだ・・・・ここは
襖一枚隔てているだけで、ここも商店の中のはず・・・だよな。
暗闇に慣れてきた目を凝らしてみると
薄暗く狭い通路はずっと奥へと続いているようで
両側に所狭しと積み上げられた商品の山に何故か悪寒すら。
・・・ 穿界門の中みてぇ
虚だとか敵だとか言うならまだしも、ただあの変態の領域というだけで
なんだか得体の知れない化け物でも住んでいるような 嫌な予感。
とにかく今、巻き込まれるわけにはいかねぇ。
しかもこんな格好で・・・
頼まれた袋を近くの棚に置くと、俺はすぐさま振り返り
襖を開けようとするが、さっきまであった襖が無くなっている。
そびえ立つデカイ壁を背に 静まり返る暗闇の中を
俺はひたすらに出口を探したんだ。
--- くれぐれも迷子にならぬよう
テッサイさんの台詞の意味が、あの時ようやくわかった気がした。
「おぉぉい!テッサイさーん」
「雨〜」
そういえば、アイツはこの店の地下にあんなデケェ勉強部屋まで作った奴だった。
俺はマジでこのまま・・・
そう思うと背筋がゾッとした。
黒崎サン ―
黒崎くん ―
どのくらい時間が経ったのか
俺を呼ぶ声に、ハッと気がつけば
俺は畳の上で横になっていて
真横にはニヤニヤした下駄帽子と、 やっぱり笑顔のさん。
そしてその後ろには
心配そうに覗き見る雨と、苦笑いをするテッサイさん。
「あ・・?俺・・・・いつのまに?」
「きっと、暑さに当てられちゃったのね」とさん。
「いや、そうじゃなくて、ここの倉庫」
「倉庫で迷子にでもなったんスかぁ?」
「あら、喜助さんったら・・・黒崎くんはもう高校生よ」
そんな嬉しそうに笑ってるけどこの店ヤバイんだって、さん・・・・
「ところで黒崎サン」
「約束ちゃーんと守ってるじゃないっすか。感心感心」
と、いきなり話題を変えたかと思うと、二人で目を合わせて笑いやがって
「ほんとねぇ、素敵よ?黒崎くん」
その馬鹿がつくほど能天気な様子に 俺は深く溜息を吐いた。
「意外とお似合いっすよ?」
「でもやっぱりまだ、子供。貫禄は全くありませんねぇ」
「うるせぇ、着ろって言ったのはそっちだろ」
そして 二人で腕を突きあいながら こそこそ
「そうっすかぁ? やっぱり?」
くすくす くすくす
「ソレを言っちゃ黒崎さんに悪いッスよ」
さんは途端に顔を赤くして
ばつの悪い笑顔を浮かべながら 浦原さんの腕を突っつく。
いや、いいってさん。
どうせ 「喜助さんの方が素敵よ」とか言ったんだろ?
あぁ、そうだろう。
こんなヘンテコな格好、コイツにしか似合わねぇよ。
こんなもん、別に俺、似合ってなくていいし。
それより、似合いたいとも思わねぇし?
つーか俺をネタに、二人してまたイチャついてんじゃねぇ。
正装してる二人の前で こんな格好の俺が馬鹿みたいじゃねぇか。
結局コイツらは どんな時だって 二人の世界なんだ。
あんな暇な店の店番を一日やるなんて
どうってことない、そう思っていたのが甘かったのか。
いやそうじゃない。
あの夫婦を甘く見ていた俺が、悪いんだきっと。
出来ることなら、今後一切アイツとの関わりを絶ってしまいたい。
そう思ったのも無理はねぇだろう?
つづく・・・
(一護に同情するよ)