本日の担当    
















いつも楽しく幸せな私の結婚生活。


だけど先日、私は泣いてばかりの日がありました。




浦原商店は、商店街から離れているとはいえ、自宅への帰り道にあります。

寄ることも簡単なのですが、私は用が無い限りは店の前を通る事はしません。

だって私が顔を出せばきっと、テッサイさんが気を遣ってしまうでしょうし。

喜助さんもああ見えて忙しいはず。なんたって男のお仕事ですからね。

覗いて見たい気持ちを抑えつつ

私はいつも一つ手前の角を曲がるようにしていたんです。





あの日もそうでした。










夕飯の買い物を終え、浦原商店の近くを通ったときのことです。


そこには綺麗な格好をした、見るからに若奥様のような女性が数人。

道端で立ち話をしていたんです。


見ると知らない顔でしたが私は会釈だけすると、いつものように角を右に。


すると、通りすがりに女性達の話し声が聞こえたんです。








「それがね、すっごいイイ男なの!」 


控えめな声でしたが、途切れ途切れに聞こえる言葉は






変な格好だけど ・・・ 

帽子をね ・・・ 

結構若いのよ ・・・










喜助さんのことだ!



この人たち、喜助さんの話をしてる。



私は途端に胸がドキドキとしてきました。






足は急に歩みを止めて、耳だけが機能していたように思います。

その女性達は小さく歓声を上げながら、見たいとか素敵とか

まるで芸能人の話をするように盛り上がっていました。






独り身って感じ ・・・

きっと親戚の子 ・・・

結婚してたって ・・・






好き勝手に飛び交うお喋り。


その女性達はどうやら商店に買い物に行く事にしたようで

揃って商店へと向かって行きました。喜助さん目的で・・・








なんだろうこの嫌な気持ちは。


いてもたってもいられないような、だけど後を追って店に行くなんてとても。



私は彼女達が店の中に消えていく様を見届けると、やっと角を曲がりました。


とぼとぼ、そんな足取りでしたが、モヤモヤとした気持ちは溢れ出し



喜助さんは結婚してます!


奥さんは私なんです!




そんな声にならない声をあげて、俯いた顔からは涙がぽろり。


気がつけば早足で、まるで逃げるように自宅へと駆け込んだのでした。





















買って来た食材を冷蔵庫へ入れると、私は急いで寝室へ行き

姿見の前に立って自分を見てみました。

いつも身だしなみには気をつけているし、小奇麗にしていたつもり。


けど、鏡に映った自分の姿は あまり魅力的には思えませんでした。


私はドレッサーから口紅を出して いつもより濃い目の色を引き

眉も少し書き足して マスカラも塗りなおし

タンスから白いワンピースを出して着替えました。



そのワンピースは、喜助さんが以前に可愛いと褒めてくれたものだから。






けれども、そうやっても気持ちは一向に落ち着きません。






あの人達、あれからどうしたのかしら


喜助さんはあんなにも素敵だもの


きっと何かと接近したんでしょうね


どんな会話をしたのかしら





考えれば考えるほど 悲しくなってきます。


自分の旦那さまが、男前だって褒められたのに。


私はあの人の妻なのに、何をそんなに嘆いているのか。


ヤキモチというには、あまりにも愚かな私の気持ち。


喜助さんは あんなにも素敵だもの


他の女性から人気が無いわけがないのに。


いつからか私は喜助さんは自分だけのもの、そんな感覚を抱いていて。


いつからか私は喜助さんの魅力がわかってるのは 自分だけなんだ。


そんなとんでもない勘違いをしていて。










喜助さんはあの人達に ・・どんな顔を見せていたのかしら。





























暫くするとドアがガラガラと音を立てました。


私は勿論その格好で飛んで行きましたが、喜助さんの反応は


「どうしたんすか? 」と、いつもと何ら変わりなく。


私は少し惨めな気持ちになりました。

でも、いきなり泣いては喜助さんを困らせるだけなので

いつもどおり、喜助さんの身の回りの世話をして台所へ。



そしてもっと呆れる事をしてしまっていたのに、気付いたんです。










「喜助さん、ごめんなさい。炊飯器のスイッチ入れるのを忘れてました」




お腹を空かせて帰って来た旦那さまを、これから1時間近く待たせるという失態。

馬鹿みたいに必死になってお洒落をして、肝心の食事を忘れるなんて。


自己嫌悪に顔は俯き、目に映る白いワンピースが何だかとても・・


色々な気持ちが入り混じって、私は胸が苦しくなりました。






すると喜助さんは



「んじゃぁ、たまには外食でもしましょっか?」




「せっかくも可愛いカッコしてるんだしね」



と、にっこり微笑んで言ったのです。




可愛いなんて、言われ慣れた言葉だと思っていたのに


その一言が、私は本当に嬉しくて 嬉しくて


目に涙を溜めながら、大きく首を縦に振りました。









「ところで、お出掛けでもしてたんスか?」



「ううん、特には。あ、あの・・ね」


「夕方・・商店の前を通ったの」



「あぁ、買い物帰り? 寄ればよかったのに」


「だって・・・・」




「あ、ううん。何でも無い」





喜助さんは私をじーっと見つめていました。


そしてとても優しい顔で笑うと、私の傍に来て言ったんです。









「質問! アナタの名前は何っすかー?」



「・・? です」



「そう。で、苗字は?」



「・・・う、うら、浦原です」



「はい、良くできました」













「ねぇ、。それ以上のものなんて無いんすよ」















組めといわんばかりに 目の前に差し出された喜助さんの腕。



「行きましょうか、泣き虫な僕の奥さん」





私はその腕にしがみ付くように 自分の腕を絡ませて



立ち上がると同時に 彼の胸の中へ顔を埋めました。




喜助さんの両腕は 優しく私を包み込みます。












その腕が、喜助さんが、好きで好きで大好きで



込み上げてくる気持ちを抑えきれず 







私はまた 泣いたのでした。
























つづく・・・


(愛って素敵ねぇ)