本日の担当
外で猫がニャアと鳴いたので、私は急いで窓を開けに行きました。
でも、去って行くのは三毛猫で、私は少しがっかりと窓を閉め
洗濯物を畳む手をまた動かし始め ふと先日のことを思い出したのです。
あれは2日程前の 今から夕食を頂こう、そんな時でした。
台所の窓の方から声がしたので 振り向くと
「久しぶりじゃの、」
窓際に座っていたのは黒い猫でした。
「夜一さん、久しぶりですね」そう言うと
「の手料理が恋しくなっての。今夜ご馳走してくれんか」
「はいっ、勿論ですとも!」
満面の笑みで答えると、夜一さんはするっと床に下りてきて
瞬く間に人に姿を変えました。
えぇ、その黒猫は夜一さんといいます。
黒猫だけど人間なんです。
私も最初は、猫が喋ることに驚きはしましたが
人間なんですもの、喋るのは当たり前のこと。
ではなぜ、人間が猫なのかと聞かれれば よくわかりませんが
そんなことはどうでもいいんです。
喜助さんの周りにはとにかく 素敵なことがあるのが常ですから。
私は早速喜助さんを呼び、夜一さんを居間に通すと
いそいそと台所から 料理を運びました。
夜一さんは驚くほどによく食べてくれ、あっという間にお鍋は空っぽ。
「ん〜食った食った。の手料理は、天下一品じゃ」
と、舌で唇をペロリと舐めまわし(こういうところは猫かしら?)
とってもご機嫌な様子でした。
夜一さんの満足そうな顔を見て 私もとても嬉しかったものです。
それから私たち3人は、たわいもない会話をし、よく笑いました。
えぇ最初のうちは・・
「お前は昔っから変わらんのう」
「そうっすかぁ?夜一サンだって・・」
喜助さんと夜一さんは、とても仲が良くて。
「あの時もそうじゃった・・・」
「あれはまぁ、いいじゃないっすか」
本当に仲が良くて。
私は次第に会話に入っていくことも出来ず
ただ・・二人の話に微笑むだけの時間が長くなりました。
いえ、特に嫌な気分でも無かったのです、本当に。
私の知らない喜助さんの話を聞くのは、嬉しいですから・・・
だけどそのうち 自然と顔も俯き加減に
私は「お茶煎れて来ますね」 そう言って台所へ逃げたんです。
喜助さんには熱い日本茶を 夜一さんにはホットミルクを。
食器棚から湯飲みとマグカップを取り出そうとする手も
何故か思うように動きませんでした。
台所に来ても 二人の声は筒抜けで
ついつい、耳をすましてしまいます。
気付けば ヤカンからはもうもうと湯気が立ち
湧き過ぎたお湯で煎れたお茶は、とても飲めるようなものでもなく
少しでも冷めればと 私はふうふうと湯呑みの上から息をかけていました。
すると ぽとん・・・・ テーブルの上に水が
どうやらそれは私の涙のようで
悲しいわけなど無いはずなのに、勝手にぽろりぽろりと
やだ、何で涙なんか・・・
「どうかしたのか、。遅いようじゃが・・・」
台所に入ってきた夜一さんに、私は慌てて 指でその雫を拭いました。
「あ、ごめんなさい。今・・・」
「どうしたというんじゃ。 どこか痛むのか? ん?この夜一に何でも言うがよいぞ」
私は悪いことをした時のように、ドキドキとしました。
初めて見た時から彼女に惹かれ その容姿、立ち振る舞い、姐御肌な気質全てに
密かに憧れさえ感じていたのに
私はもしかしてヤキモチを?
情けないというか、申し訳ないというか、なんとも居た堪れない気持ちが溢れ
「いえ、私、、夜一さんが大好きなんです」
なんて、私は咄嗟に わけのわからない台詞を吐いていたのです。
でも、この時は本当にその言葉しか 思い浮かばなかったんです。
すると夜一さんはにかっと笑い
「ほんには愛いヤツじゃ」
と、私の頭をクシャクシャっと撫で、そのまま顔を近づけて
私の右の頬をぺろりと舐めたのです。
「あ”ーーーーーーーっ!!!」
体がびくんとするほどの大きな声を上げたのは 喜助さんで。
「夜一サン、酷いじゃないっスかー。はアタシの奥さんなんっスよ?」
「まぁ良いではないか。減るもんじゃあるまいし」
「いーえ駄目です。減ります」
と、夜一さんを ひと睨み。
喜助さんはさっと私の肩を抱くと、抱えるようにして 居間に連れて行きました。
そして私を胡坐をかいた自分の足の中に座らせ 後から抱きかかえるように
両の腕を回してきたのです。
勿論恥ずかしかったですよ。 夜一さんの前ですから。
私がモジモジとしていると 夜一さんは呆れた様子で一言
「まるで宝物を隠す子供のようじゃ、いいオヤジが気色悪い」
「 ・・何とでも」
そして喜助さんは より一層強く抱きしめるんです。
「あ〜ぁ、バイ菌付いちゃいましたね。綺麗にしときましょう」
そう言って 私の頬をそっと撫でて・・・
今にも口付けされそうな距離に 私の顔は赤くなっていたことでしょう。
「お前は阿呆か、が困っておるぞ」
「だって夜一サン 昔から僕の宝物を横取りするでショ」
夜一さんは くっくと笑い出しました。
「あぁ?そうじゃったかのう」
「けど、だけは渡しませんよ」
喜助さんは見せ付けるように、私をきつく抱きしめました。
「も気の毒よのぅ、変な男に捕まってしもうて」
夜一サンは心底呆れたような顔をして ハアと大きく溜息をつくと
「じゃあな、。あまり喜助を甘やかすでないぞ」
そう言うとまた猫の姿になり 窓から去って行きました。
私の知らない喜助さんを知っている 夜一さん。
でも、夜一さんの知らない喜助さんを知っているのは 私。
結局は出しそびれたホットミルクを私は彼女のかわりに
もう一度温めて飲み干しました。
今度はいつ来てくれるのかしら?
そんなことを思いながら
つづく・・・
(喜助さんは渡しませんよ?笑 )