「ね、真子、行くって何処へ?」
おもちゃの国
眠れない夜はとても長く寂しくて、誰かに居て欲しいと思う。
だけど朝が来るのもまた怖くて、あぁいっそ何処かに逃げてしまいたい。
ベッドの上に寝転がって、ゆっくり深呼吸をして目を閉じるけど
今夜も私は、眠れないんだ。
今何時だろう、ベッドサイドに手を伸ばそうとして
コツコツと窓を叩く音に ドキッとした。
だってここは2階。誰が窓を叩くというの
・・・しかもこんな夜更けに。
おそるおそる窓の方に視線をやると
そこには金髪のおかっぱ頭。
こんなに特徴のある人、見間違うわけがない。
真子だ
でもどうやって?
そんな疑問よりも先に、体はベッドから跳ね起きる。
窓に駆け寄ってみると
え??
真子は宙に浮いて、いつもと何ら変わらない顔で平然と笑う。
そして私が窓を開けると同時に
「やっぱ起きとったわ。どや、遊びに行かへん?」
「え?これから? ってそれより真子・・」
「ええからええから」
「行くって・・・何処へ?」
「ん、おもちゃの国・・」
「ちょっ!待って・・」
私の返事なんておかまいなし。
真子は私の腕をぐいとひっぱって
夜の空へと連れ出した。
ふわり
足が地に着いてない感覚に、ギュッと目を瞑る。
何これ?
体が浮いてる?
部屋を振り返ると、私の体はベッドに横たわったままだ。
これって・・・
「ねぇ真子。何これ・・幽体離脱?」
「・・みたいなもんや」
何で平気な顔してんの真子。
あぁそうか、これは夢なんだ。
そうに違いない・・・・
飛び出した夜空は月がとっても綺麗だった。
地上から見るよりもずっと大きく、その存在を主張する。
夜の空気は少し生温くて 体ごと溶けてしまいそうだ。
ここには何も無くて
あるのはただ、私の体と心と
真子
体はふわふわと軽く 今にも風に吹き飛ばされそうで
真子の腕にきつくしがみ付いた。
「怖いん?」
「当たり前じゃん」
真子は笑う そして
「えぇこと教えたるわ」
「 」
「・・・・え?」
驚く私をよそに
「ついでにオモロイ遊びもな」
真子は私の手を離すと、くるっと逆さまになった。
「もやってみィ」
「さかさま?」
「スカートやないから 平気やろ」
じゃなくて、どうやって?
「こうやってな、足だけを意識してふっと体の力抜くねん」
こうやってふっと・・・・あ
・・・逆さまだ
景色が全部逆さまに見える。
体がすっごく軽いよ。
頭がくらくらして気持ちいい。
眼下に広がるのは ミニチュアの街。
こうやって見ると、世界はまるでおもちゃみたい。
「真子〜ぃ」
「んー」
「気持ちいいねー」
「せやろー?」
広い広い空の上で、ただ迷子にならないように
二人でしっかりと手を繋いで、夜空を散歩する。
星まで手が届くんじゃないかと、思いっきり手を伸ばしたり。
力を入れて急上昇
力を抜いて急下降
めちゃめちゃに楽しくて 楽しくて
笑いが止まらなくて。
見て!お月さまがあんなに近いよ。
ふんわり浮かんで ふわり軽く
こんな自由、初めての経験。
あぁ、本当にここは おもちゃの国だね。
ねぇ真子
どうしていつも私がピンチの時に現れるの?
眩しい光に 瞼の上がチカチカとして
重い瞼を開けたなら、そこはやっぱりベッドの上で
朝の光で満たされた部屋の中を
私はなんとなく キョロキョロと見回した。
いるわけないよね
あ〜ぁ、変な夢みたなぁ。
よりによって、真子と空を飛ぶ夢なんて重症だ。
重い体を引きずるように、学校へ向かう。
だらだらと歩いてると、今度は本物の真子が目の前に立っていた。
「おはよーさん」
「おはよ」
あんな夢を見たからか、変に意識してしまって、うまく言葉が出てこない。
「なんや、疲れた顔してからに」
「あ、うん。ちょっとね、変な夢見ちゃって」
「変な夢? ・・で、その夢、楽しかったん?」
「うん、すっごく楽しかったよ」
突っ込んでくるかと思ったのに、真子は嬉しそうに笑ってる。
「ほな、今夜はスカートで行こか?」
・・・・・・
あれは夢じゃないの?
じゃあ、あの時の台詞も?
「オマエが好きや」
ハッと振り返ると真子は、もうずっと先で 「はよー来ィ」と手招きしてた。
スカートは絶対無理
だけど もう一度聞かせて
おもちゃの国で