報告担当 紬屋 雨
キスケさんが電話で話をしてた。
顔は緩んでいて、とても優しい声だったから
あたしは電話の相手がさんだって、すぐにわかった。
その様子を横目に見ながら、箒を持つ手を動かしていたんだけど
ふと見るとゴミは全く集まっていない様子に、あたしはふぅとため息をついた。
キスケさんはさんと暮らし出して、引っ越していった。
とはいえ、歩いて行ける距離なんだけど。
キスケさんは、いつでもおいでと言ってくれたし
さんは、綺麗で優しい人だってのも知ってる。
だけどそこはたぶん、こことは違うから
だからあたしは一度も行った事がない。
チンと電話を切る音がして「ウ〜ルル〜おいで〜♪」と、キスケさん。
走って行ったら
「今から家に行って下さい。が待ってます」
って、機嫌良さそうに笑った。
「あの・・・でもぉ・・」
掃除なんてもういいから、と背中を押されて通りに放り出される。
振り返るとキスケさんは、バイバイと嬉しそうに手を振っていた。
あたしは何も聞かなくても、すぐにキスケさんの家の前に辿り着いた。
だって、何度も一人で見に来たことがあるから・・ と、これは内緒だけど。
あたしはさんと二人きりになったことが無いから
何を話せばいいのかもわからないし、ちょっと緊張してきて
そのままそこに突っ立っていたら
「あらウルルちゃん?いらっしゃ〜い」
にっこりと微笑んで縁側から顔を出したさんが
とても可愛く笑ったので、ちょっとドキッとして、挨拶が出来なかった。
「わざわざ来てもらって悪かったわねぇ、どうぞ、上がって行ってね」
あたしは緊張したままで、本当はキョロキョロしたかったのに
視線は目の前にあるテーブルと、その向うの庭ぐらいしか見ていられなかった。
だけど、さんが出してくれたカルピスは私の好みの濃さで
とっても美味しくて、その苺柄のグラスだけはハッキリと覚えてる。
それからさんは、奥の部屋からにこにこして小さな袋を持って来た。
開けてみてと言われて受け取ったその中に、凄く可愛い髪留めが入っていたから
あたしはとても驚いた。
丸くて透明なその中には、ピンク色のビーズがキラキラと、まるで飴玉みたいで
「さっき買い物に行った時見つけたんだけど、
ウルルちゃんに似合いそうだったからつい、買っちゃったの。
良かったらもらってくれる?」
あたしは何故か顔が熱くなって、俯いたけど首だけはハッキリ縦に振った。
「そうだ、付けてみない?」
さんは櫛を出してきて、あたしの髪をときだした。
あたしはただ恥ずかしくて、相変らず下を向いて真っ赤になっていたんだけど
「ほら、ウルルちゃん、見て」
そう言われて顔を上げると、鏡には三つ編になった髪にさっきの髪留めが付いていて
あたしは目を丸くした。
「ウルルちゃん!凄〜く可愛いわ」
ほんとはとっても恥ずかしかったんだけど、さんが
「喜助さんもきっと、喜ぶわ」そう言ったから
あたしはそのまま、商店に帰った。
「ただいま・・・」
「おや?ウルル〜! 可愛いじゃないッスかぁ」
キスケさんがそう言って、あたしの頭を撫でるもんだから
またあたしの顔は熱くなった
「さすが女性は女性同士。ごめんね、僕、気が利かなくて」
「そんなこと無いですっ」
ムキになって言うあたしに、キスケさんは優しく笑ってくれた。
そして言ったの
「ありがとうね、ウルル」
喜助さんがあたしにお礼を言った意味がわからずに
考えていると
・・・喜助さんもきっと、喜ぶわ・・・
さんの言葉を思い出した。
そして汗が出ちゃうぐらいに焦った。
「キスケさん、あたし・・・さんにお礼言ってなかった」
「なぁに、また行けばいいッスよん」
また行けば・・・
さんが笑った顔と
あたし好みのカルピスの味を思い出して
あたしは何だか ウキウキとした気分になった。
その日は、商店のガラス戸に映った自分を
何度も見ては嬉しくなったっけ。
今度はちゃんと挨拶もしなくっちゃ!
つづく・・・
(まともなのはウルルだけ?)