恋の病と青い春
屋上に来れば、少しは気も晴れると思ったのは甘かった。
見上げた空は どんよりと暗く
湿気の多い空気は ずっしりと重い。
私はとりあえずフェンスに手を掛けて
はーと小さく溜息なんて吐いてみる。
気分が晴れないのは、テストの点が悪かったからでもなく。
友達と喧嘩したからでもなく。
そう、私は病気なんだ (それも恋の病ってやつ)
こうやって、先生の顔を見ずに ぼけっとしてる方が楽。
だけど、さすがに誰もいない屋上は
なんだか余計に孤独な感じがして
やっぱ戻ろうかと思っていたとき
後ろの方で重たいドアが、ギギィと開く音がした。
「おーい、。堂々とサボりですかぁ?」
げ、来た・・・ 噂の病原菌が
私は振り返って にへらっと笑ってみせる。
「や、あの〜、気分悪くて・・」
本当は先生の顔見てたら 胸が苦しくなるからなんて
・・・言えない
「そーいう時は、保健室って相場が決まってんの。屋上なんかに居ると
ホラ、心配しちゃうでしょーが」
心配? そういえば先生だって、授業どうしたんだろう。
もしかして私を探しにわざわざ?
なんて少し期待したりしちゃうのが、バカなんだ。
担任なんだ、当たり前といえば当たり前。
「悩み事ですかー? お嬢さん」
「はぁ、、?」(お嬢さんかい)
「青春の悩みなら、銀八センセーが聞いてあげようじゃないの」
「いえ、あのぉ〜」
銀八先生は 私の頭に手を置いて、ゆーっくりと顔を覗き込む。
(やーめーてー、顔が赤くなるー)
それに、なんかちょっと甘い匂いがするんですけど
「こういう高い所に来るって事はぁ、悩みがあるっつーパターンでしょ。
広い空を見て、こう・・なんて自分はちっぽけなんだぁぁぁー!って、違う?」
「・・・違います」
「あ、即答?」
「ま、言いたくないなら、聞かねぇけど」
そして 先生までフェンスに手を引っ掛けて
こうやって並んでみると ちょっと笑える格好で、二人して空を眺めた。
相変らずの灰色の空だったけど
間近に見る横顔がなんか嬉しい
時々ふわっと揺れるその天パも、なんか愛しい
そして屋上には二人っきり。
予想外の展開に 私の胸はドッキドキ
しかも先生は 私の言葉を待っている?
これはもしかして、チャ、チャンス到来でしょうか
今しかないよ。頑張れ !と自分で自分にエールを送って
「あのね、先生」
「あー なに?」
「えっとね、実はわたしね・・・」
「んんっ??」
「その・・好きな人が・・」
「お、恋愛相談か。なんだ、ん?同じクラスの奴か?」
まずはこのドキドキを落ち着かせて
目の前にいる銀八先生を カボチャだと信じる。
そして、先生の方を向いて 噛まないようにゆっくりと
「あの、先生を・・・好きになっちゃったんです」
すがるようにじーっと、上目遣いに 銀八先生を見上げた。
きっと顔は真っ赤だったに違いない
なのに・・・・
先生は一瞬、目を丸くして、けど
すぐに視線を逸らされたから、 きっと失恋なんだろう。
ここで冗談でも 「俺ですかっ?」なんて言ってくれれば
勢いに任せて「うん」なんて言えたのに
ヤバ・・・泣きそう・・・・
でも、今泣いたりしたら、教室にいることすら辛くなる。
やっぱ言うべきじゃ無かった。
「あっでも、銀八先生のことじゃ無いよ?」
「わーってるって」
ハハハハって空笑いなんてして、何をわかってるのか
私の嘘? それとも本当にそう思って?
ほんの数分間の沈黙が、やけに長く居心地が悪い。
先生はポケットから煙草を出して火をつける。
そして、ふーっと大袈裟に白い煙を吐き出した。
「あのさー さー」
「はい?」
「そんな禁断の恋よりー、もっと周りを見たらど?」
「周り・・?」
「そ、お前、結構イイ線いってんだって。男子からも人気あんだぞー」
「そーなの?」
何よ、今そういうこと言う?
そんなこと、興味ありませんってば
「ぐらいの時期ってのはさー、手近な大人の男が、どんなヤツでも良く見えちゃうもんなのよ」
「・・・・・」
とか、適当に逃げ台詞
もういいって・・ わかったから
「そうだね、確かに冷静に考えたら、どこにもいい所なんて見つからない」
「えぇぇっ、それって酷くない?」
ほーら、自分の事だってわかってるんじゃん!
大人ってずるい
私の気持ちなんて、薄々気付いている筈なのに
こうやって、気付かない振りをして
「そんなに人気あるなら、彼氏いっぱい作っちゃおうかな」
「おいおい、あんまり男を泣かせんなよ?」
ここで、私のいっぱいいっぱいだった頭の中の何かが
一気にこぼれた。
くるっと向きを変え、そして後ろを振り向かないまま
「先生こそ、 いたいけな乙女を泣かせてるじゃん」
小声だけどハッキリと、そう言い捨てて
私は走って屋上を後にした。
心臓が有り得ないぐらい 脈打ってた。
最初から期待なんて、してたわけじゃないけど
ちょっとだけ、涙が流れたから
追いかけてくれなくて、助かったんだと思う。
だいたい、なんであんな奴に惚れちゃったんだろう。
格好良いというのなら、高杉先生の方が当て嵌まる。
可愛いというのも、ちょっと微妙
だけど、さっき見た先生の横顔とか
告白した時の、ちょっと目を見開いた顔とか
面倒くさそうに煙草に火をつける仕草とか
どんどん思い出すから
私はやっぱり病気で、しかもかなり重度なんだ。
「失恋」っていう処方を突きつけられても
受け取ることすら 出来ないで逃げ出したりして。
そもそもこんな可愛い女子高生が
あんないい加減で、だらしない男に恋をしちゃうんだから
やっぱり青春ってあなどれない。