Shangri-la シャングリラ
暗く冷たい宙の中を彷徨ったのは、ほんの少しの間だった。
体は軽く痛みも感じることは無く、不思議と意識だけはしっかりとしていた。
おいで・・・ と声のする方へ顔を向けると、微笑んだ顔のあの人がいて
青白い光に包まれたその姿が眩しくて、私は思わず目を細めた。
すると 「ほら」と微笑みはそのままに、今度は手を差し伸べられる。
戸惑いながらもその手をきゅっと握り返すと、しっとりとした感触に瞼の奥が熱くなった。
「やっと会えたね、」
繋いだてのひら、その温かさと懐かしさに遠い昔を思い出す。
まだ小さな子供のころ、ブルーが私を迎えにきてくれたあの夜と同じだ。
一人で不安に泣いていると、差し伸べられた優しい手
私はいつもこの手に救われ導かれるんだ、繰り返し繰り返し
「迎えにきてくれたの?」
「勿論。キミを迎えにいくのはいつでも僕でありたいからね」
「・・・ブルー」
溢れて零れ出す涙は拭いもせず、ぽろぽろと零れるままに流す。
ブルーが目の前にいるんだもの。もう我慢しなくていいんだもの。
「相変らず泣き虫さんだ」
くすと笑うあなたの笑顔はあの頃のままで、それはとても嬉しくて。
そうさせているのはあなたでしょ。
言い返したい言葉はすぐに浮かぶのに、なぜだか声にはならず
ただ 「ブルー、ブルー」と、何度も彼の名前を呼んだ。
嬉しくて愛おしくて懐かしくて、 この溢れる感情をどうしたらいいかもわからずに。
そんな私の様子に、嬉しそうに頷いてみせる彼の仕草があまりにも自然で
当然のように私の手を引くブルーの手が、とてもとても懐かしくて
あぁ、この日をどんなに待ちわびたことだろうと、体が震える思いがした。
ブルーはそっと私を抱しめる。それはずっと待っていた求めていた温もり。
彼の温度は私の体と心を どくどくと熱く満たしていく。
あなたがいなくなってから、何度も後を追おうとしたけれど
地球に行くまではと、あなたの意志と共に地球へ行くのだと
ジョミーや長老たちとした約束は、私の生きる意味全てだった。
私たちは地球へ行った。そして・・・・ 長い旅は終わったのだ。
ジョミーはその使命を果たし、次代のソルジャーへと希望を託した。
そう、あなたのした通りに。未来へと続く道を残して
「ブルー、地球は・・・」
「うん、知っている」
ブルーの視線の先に目をやると、一つの星があった。
それは青でも緑でもない赤茶けた姿の地球。けれどその姿は美しく。
「地球が約束の地なのは、何も変わりはしないよ」
新しい命は紡がれていく。その輝きは途切れることは無いんだよ。
時代は流れる。そして未来永劫へと繋がっているんだ。
だから僕たちはここで、その未来を見守っていこう。
そう言うと優しい顔で微笑んだ。 なんて強いひと
「ブルー、会いたかった」
ブルーはゆっくりと頷いて、そして優しく私を抱き寄せた。
「先に逝ってしまってすまない」
「うん」
「寂しい思いをさせてすまない」
「うん」
「もう一人にはしないよ。今からはずっと一緒だ」
「うん」
「もう 泣かないで?」
「う、うん」
背中に回された腕に力が込められる。もう二度と離すものかと強く強く。
痛いと小声で訴えてみれば 「愛の強さだよ」とブルーは笑った。
「行こう。ジョミーはもうお待ちかねだ」
「ジョミーが来てるの?」
「あぁ勿論。真っ先にここに来て沢山の話をしたよ」
ジョミー。 あぁ、あなたにもまた会えるのね。
一瞬にして胸の奥に熱いものが突き上げる。
「まだまだ話は尽きないらしい。そしてキミを待っている」
私の涙はもう止めることが出来ない。嬉しさで体ごと弾けてしまいそうだ。
「ジョミーだけじゃないさ。長老たちもリオもいるよ」
「またみんなでお茶でもしようじゃないか」
嬉しそうに話すブルーは以前のままで、否、それよりもずっとずっと昔の彼の顔で
その美しさは幸せに満ちて、更に優しく穏やかに見えた。
やんわりとそれでも力強く くいと腕を引かれ彼についていく。
ブルーはまるで口笛を吹くように 軽やかに外套を翻し、青白い光の中をふわり浮いて
その光と同じ色の彼の髪は、黒い宙の中で透明にきらめいていた。
「ごらん。これからはここが僕らのシャングリラだ」
ブルーの指差す方を仰ぎ見ると、沢山の光が輪を作っている。
白く輝く光の輪。それは見たこともない美しい奇跡のような星の渦。
散らばる星屑は花びらのように宝石のように、きらきらときらめいて。
その様子に胸を弾ませてブルーを見れば、ブルーも一度こちらを見て
にっこりと微笑むと 頬に柔らかいキスをくれた。
光は消えることは無い、永遠に。 ここにいれば未来が見える。
あぁ、なんて幸せなのかしら。またあなたと生きることができるなんて
どこか遠くでキラリ 神様が微笑んだような気がした