きみがいる幸せ
もうとうに夜は更け、艦内は静けさに包まれていた。
読みかけの本を膝に置いたまま、もう何度目かわからない溜息を吐く。
”先に寝ておいで” ブルーはそう言ったけど、眠れるわけがない。
今夜は何やら長老達だけの大事な会議があるとかで、勿論私も参加するつもりでいた。
なのに、こともあろうにブルーから、は部屋にいるようにと言われたのだった。
膨れる私に 「も大人ですし・・・たまには」と言ってくれたのはエラ女史だけ。
ハーレイとブラウは顔を見合わせて眉を歪め、とどめにブルーの「いや、は駄目だ」の一言で
唯一の味方であった彼女も、ブルーの言葉に肩を竦めてしまった。
遅いなぁ、一体どんな話をしているのかしら・・・
時間にして3時間。何度も見てしまう部屋のドア。
ブルー達の様子が気になって、思念を探ってみたけれども
固く貼られたシールドに遮られてしまうから、それも数回で諦めた。
ふぁと欠伸が出る。
もう寝てしまおうかとベッドに入ろうとした時、部屋のドアが静かに空いた。
「ブルー?」
不機嫌だったはずのなのに、つい声に嬉しさが現れてしまう。
ブルーはゆっくりと部屋に入ってきた。けど、気のせいか少し足元がふらついている。
「・・・遅くなってすまない。まだ起きていたのかい?」
「うん、だって眠れなくて」
ブルーは微笑む。この顔を見ると今までの苛々も吹っ飛んでしまうんだから私も甘い。
「こんなに時間がかかるなんて、ほんとに大事な会議だったのね」
「あ、、、あぁ・・」
「お疲れでしょう。すぐに休んだ方が・・・」
「あぁ、そうする。でもその前に水をくれないか?」
項垂れるようにソファに腰を下ろすブルーを横目に、私は水を取りに席を立つ。
ブルーはよほど疲れたのか、可哀相にそのまま横たわって目を閉じていた。
「ブルー、お水よ?」
コップをテーブルに置き、彼の隣に腰をかけた、そのとき。
私はようやくブルーの様子がおかしいことに気が付いた。
お酒の匂い・・。途端に心配していた気持ちはどこかへ消えてゆく。
「ブルー・・・大事な会議って?」
苛立ちが声に現れたのか、いつもより低めの声が出た。
「う・・ん・・すまない。そういうことなんだ」
ブルーはばつが悪そうに苦笑する。
「ブルーの意地悪!私を除け者にして」
「ごめん。にはアルコールは駄目だと思ってね」
冗談じゃない。この人は一体、私がいくつだと思ってるんだろう。
此処に来て既に20年は経っているというのに。もう大人なのに。
そりゃあこの人からみれば、誰だって幼くみえるかもしれないけど
「もう子供じゃありません」
私は頬を膨らませてそっぽを向いた。するとブルーは呟く。
「・・・そうじゃないんだ」
じゃ、どういう意味?と聞こうとして見ると、
ブルーは水を一口飲んで、そのままテーブルに突っ伏してしまった。
目を閉じ、少し赤く染まった頬が、悔しいけど可愛く見えてしまう。
こんな状態で問い質すのも、何だか可哀相な気がしてきた。やっぱり私は甘い。
「ブルー、こんなところで寝たら風邪をひくわよ」
やんわりと言ってみるが、ブルーはうんと言ったきり体を動かそうともしない。
いくらなんでも男の人を抱えることも出来ず。仕方なく肩を揺すれば、そっと手を取られた。
「・・・」
「ぅん?」
「・・・」
「なぁに?ブルー」
ブルーは少し潤んだ瞳で、私のことを見上げている。
あぁもう何て顔をするのかしらこの人は
私よりも数倍も長く生きて、数倍も大人のくせに・・・・
自然と私の頬も緩んでしまう
「あのね・・・」
「ん? なぁに?」
「そこに寝てもいい?」
ブルーの視線は私の膝で止まっている。もしかして膝枕をして欲しいと言っているのかしら?
今夜の彼には驚かされてばかり。私は緩んだままの口ですぐに返事をした。
「もちろん」
ソファーに座り膝をぽんぽんと叩くと、ブルーは照れくさそうに微笑みながら私の膝に頭を預けた。
ふわりと触れる銀色の髪と頭の重みが、愛おしくてそっとその中に指を絡める。
するとブルーは気持ち良さそうに目を閉じて呟いた。
「あぁ・・・気持ちいいな。の膝は」
そんなこそばゆい言葉に、私の頬はますます緩む。
こんな彼には滅多にお目にかかれないだけに、心の中でこっそりお酒に感謝する。
きっと皆の前では酔った姿など晒していないのだろう。
平気なふりをして、ここに来てやっと息をつけたのかしら。
そう思うとますます嬉しさが込み上げてきた。
大事な会議ってのも、まんざら嘘では無かったかも知れないわ。
こうして可愛らしいブルーがみられるんだもの。
暫くそうしてブルーの髪を触ったり、頭を撫でたりしていると、ブルーがぽつりと呟く
「僕と二人の時ならいいよ」
「ん?何が?」
「お酒」
「・・・前にはひどく酔っ払って、ハーレイに抱かれて戻ってきたことがあったろう?」
あ、と昔のことを思い出した。前にこっそりお酒を飲んだときのことだ。
倉庫の整理をしていたときに、私とブラウは偶然にワインを見つけた。
キャプテンに持っていこうかどうしようかと 二人で話すうちに
ちょっとだけ味見をしてみようということになり、倉庫の中で私達は秘密の酒盛りをしたのだった。
記憶はあまり無い。 アルコールが初めてだった私は、限度もわからずに飲みすぎてしまい
ひどく酔っぱらってその場に寝込んでしまった。その後困り果てたブラウがハーレイを呼んで
私はハーレイに抱えられて、ブルーの部屋まで運ばれたんだっけ。
「あれには妬けたよ」
ブルーの髪を触っていた私の手がピタと止まった。
子供扱いされたと思っていたのに、その真意はジェラシーだったの?
彼のそんな独占欲が恥ずかしくて嬉しくて。私の頬までぽかぽかとしてくる。
心の底から湧き出るような嬉しさに包まれる。この気持ちはどうしたらいいんだろう。
膝に寝ている人を抱しめるわけにもいかず、私は彼を撫でる手に精一杯の愛情を込めた。
お酒のせいなのか、彼の頬は赤く染まったまま
すると今度は、子守唄を歌ってくれないかなと、可愛らしいお願いまでされる。
随分と甘えん坊なソルジャーだ。だけど、先程の寂しさも苛立ちも嘘のように、私は喜んでばかりいる。
自分の膝でこんなにも無防備な姿をみせる彼が、なんだかとても愛らしい。
私はぽんぽんと手で調子を取りながら、まるで母親が子供にするように
以前アルフレートから教えてもらった優しい歌を口ずさんだ。
「・・・ いい歌だね」
ゆっくりとしたメロディラインにのって、私の声が部屋をそっと包み込む。
ブルーはとても満足そうに唇で弧を描いたまま、目を閉じて寝息を立てだした。
あぁ、どうしてこんなにも胸が温かいんだろう。
ブルーとこうしているだけで、幸せというものの意味を知る。
いつもは護られてばかりの私だけど、今は私がこの人を何物からも護りたいと思う。
おやすみなさい、私のブルー。どうかどうか安らかに。
これからも私があなたの安息の地でありますよう。
ささやかな、けれど途方もない願いを込めて歌う。
私を包むこの幸せが、あなたの心の隅々まで届きますようにと
みどり様へ
キーワード(お酒に酔って素直になるブルー&歌)のつもりでした^^; 如何でしょう?
少しでも気に入ってもらえれば幸いです。