赤い火を抱き込んだ枯葉たちは パチパチと音を立て

薄暗く柿色に染まった空には 白い煙が縦に伸びていた。




「ねぇ喜助さん、まぁだ?」


「まだまだっスよ」




先程から続くこの状況に ほんの少し飽きた私は なんとなく空を見上げる。

いっそ雪でも降ってくれたなら 少しはロマンチックなんだろうけど

一昨日は降っていた雪も 肝心な時には顔を出してくれない。

まぁそんなものかな、と、目の前の喜助さんを見て少し可笑しくなった。

だって今私は 浦原商店の裏庭で、焚き火の前に立っているわけで

ロマンだとか、ホワイトクリスマスだとか言うのも 似合わない気がする。



正直に言うと今日はイブだから・・・ 

特別な気持ちでこうやって、店に遊びに来たのだけれど

ここはクリスマスの雰囲気なんて全く無く、いつもと変わらなかった。
















「ねぇ、喜助さん。お店には勿論・・・ツリーなんてないんだよね?」

喜助さんは焚き火の近くだというのに 煙草なんて吹かしながら・・・


「ツリーッスか。あぁ、クリスマスの?」


「うん、そう。知ってた?今日イブなんだよ?」


「知ってますよ、一応。うちでは祝ったことは無いっすけどね」

そう言ってまた ぷかぷかと煙を吐き出した。



「そうなんだぁ。だよね〜似合わないもん」



無神論者っすから、なんて言われたら続ける言葉も無くなって

まぁ確かに、私もクリスマスなんて、ただ何となくイベントとして捉えているわけで、と

言い訳なんてしながら。 そしてまた 赤い火の漏れる焚き火に視線を移した。








世間はクリスマス一色だというのに、ここは焼き芋かぁー

なんて 小さく溜息を吐きながらも 

出来上がるだろうほくほくのお芋に、少しワクワクもしていたりして。

視界の隅にある喜助さんの姿に 結構満足していたのは確か。









イルミネーションなんて 到底似合いそうに無い 殺風景な庭。

置いてある家具も いつの時代の物かもわからない商店の中。

そして何よりも似合わないのは、季節感のかけらもない喜助さん本人だと

いつもの作務衣と下駄の格好へと 視線を移し苦笑いする。






「ツリーぐらい用意しておくべきでしたかねぇ」


「あはは、でもここじゃぁ、もの凄く浮くと思うよ?」


「それもそうっすね」



喜助さんは目の前にあった棒を手に取ると 火の前に屈んで枯葉の山を突きだした。


商店の中からは ジン太くんの声が聞こえて

遠くでは車の走る音 そしてどこからか漂ってくる夕飯の匂い。 


確かにいつもと変わりない 夜の手前


そして焚き火の前だけは 何故か空気が止まっているように静かだった。














次第に黒さを増す空を背に 喜助さんの薄い髪の色は 火に透けて赤く。

少しの間 その後姿に見惚れていると ふっと懐かしい気持ちとともに

色んなものが溢れてきて 私の口は勝手に動きだしていた。









「あの、さ」



「はい?」




「私ね、サンタさんって本当にいると思ってた・・・子供の頃」


「でも本当は親のプレゼントなんだって知ったとき、ショックだったなぁ」




「その言い方じゃあ、随分と長く信じてたんスね」



「うふふ、まぁね」




喜助さんがこちらを振り向かないのをいい事に

私はその大きな背中に 吐き出すように言葉を続けた。








「ねぇ・・・ 大人になるってさ、色んな事を知ってしまうことなのかな?

もしかして知らなくていいことまでも・・・それは、寂しいこと?じゃないよねぇ」











喜助さんはようやく ゆっくりと立ち上がり こちらに振り向くと

「知ることが怖いんすか?」

首を少し傾げて 覗き込むようにする。









「ううん、そうじゃないけど、一つ知ると一つ、

何かを忘れちゃうような気がするだけ」








喜助さんの視線が私に注がれているのを感じて 

なんて莫迦なことを言ったんだと  視線を逸らす。

火がパチパチと跳ねる音がやけに 耳に響くような気がした。










「心配しないで、受け入れることです。

一つ失っても二つ得れば、それでいいじゃないっすか?」






「・・・そんなもん かなぁ」







サンは大丈夫っすよ。大切なものはきっと 失ったりはしない」



喜助さんがあんまり優しく笑うから
そうなのかなって思ったら 何だか少しほっとした。




「それでも 寂しいと思うときは こうやってアタシの元へ来ればいい」




「ここへ?」




「はい、いつでも抱きしめてあげます」




「・・・抱きしめって」



「あれ? 駄目っすか?」



「なんか喜助さんが言うと やらしーんだもん」








「アタシは サンが好きですから」




「うそ・・・」




「本気・・ なんっすけどねぇ」





「年・・・ いくつ離れてると思ってんの?」




恥ずかしくてつい意地悪な台詞で誤魔化したけど 私の声は小さく


喜助さんは変わらず優しく見つめる。



「いいンスよ。待ってますから・・・ゆっくり ゆっくり育てていきましょ」



熱く込み上げてくるものに きゅうっと胸は苦しくて 返す言葉はもう出ない

















「あ、そうそう今日はイブでしたっけ。

良い子にはプレゼントをあげなくちゃいけないンスよね」



「ほら、焼き芋できましたよ。 クリスマスプレゼントです・・・・」


そう言って 掌に包んだそれを大事そうに 私の手の上に乗せた。



「って、焼き芋?」

聞いたことないよーなんて、熱々のお芋を受け取って

私と喜助さんは二人してくすくすと笑った。





喜助さんの手が ぽんぽんと私の頭をやさしく撫でる。


子ども扱いしないで・・ っていつもはそう言うけれど


今日はそんな喜助さんの手が とても 頼もしくて愛おしくて


もう少し私に勇気があったら そのまま喜助さんの胸に顔を埋めていただろう。


だけど今の私には ただ頬を染めて もじもじとすることしか出来なかった。













髭はふさふさじゃないけれど、 帽子は赤くはないけれど

もしかしたら 私は本物のサンタさんに会えたのかなぁ なんて




キラキラとしたネオンも 素敵なツリーも無いクリスマスイブは

今までできっと最高の 思い出になるのかも知れない。









そうだね はぐれないように ここに来よう。


喜助さんのいる この場所へ







喜助さんが渡してくれた焼き芋は

とっても暖かくて、甘くて 不思議と涙が出そうだった。











いつのまにか 暗くなった空には 薄っすらと星が一つ輝いて見えた。






空に星  隣には喜助さん


私に差し出されるのは  いつも貴方の手のひらで


そしてこの夢は 永遠に








そばにいるよ 





















2005年 喜助生誕祭提出作品