澄んだ空気はまだ冷たさを残しつつも、やわらかく
所々に咲く可愛い花たちを視界に納めて
大きく空気を吸い込むと、ほんのりと甘い香りがした。
仕事中に野原の真ん中に突っ立って、私が何をしているかと言うと
京楽隊長のために花を探しているわけで。
花というのはご存知、ご登場時に撒くアレ。
使用後は箒で集めているその花も、そろそろ替え時という事で
副隊長の代わりに、買い付けに行く途中。
この野原の前でつい、私は立ち止まってしまっていた。
そしてなんとなくその場に座り込んで、花を摘みだしたのだけれど
何本目かの花に手をかけて、 ふと気がついてしまったのだ。
野の花には隊長に似合いそうな、華やかな花が少ないという事と
いくら綺麗でも摘むことについ、躊躇してしまう自分を
精一杯咲いている、そんな雰囲気に少しの罪悪感を覚えたり。
広い野原を前にして、ただぼけっと春風に吹かれて
そして 隊長のことなんてぼんやりと思い出す。
京楽隊長という人は、不思議な人で
隊長という地位にいながら、とても気さくで親しみやすい。
きっと優しげな話し方や、物腰の柔らかさ、だと思う。
一見だらしなく見える風貌も、品というものが滲み出ていて
密かに隊長に憧れている女性も多いとか
ただ一つ、欠点といえば、親しみやす過ぎる とでもいうのかな
よく言えば人懐こい、悪く言えば馴れ馴れしい。
俗に言う 女タラシ? (隊長にむかって失礼)
だって、思えば私が席官になって日も浅いうちから
隊長の悪ふざけは始まっていたわけで。
まず挨拶に言ったその場で
「可愛いねぇ。僕の奥さんになっちゃわない?」
伊勢副隊長の眼鏡が光り、その霊圧が瞬間的に上がったのを覚えてる。
当然冗談だろうと、私は適当に誤魔化したのだけれど
それからというもの 隊長にお会いする度
「僕のために毎日、味噌汁作ってくれない?」
「・・・・無理です」
「ん〜 じゃぁ、僕の着物を洗濯してくれないかなぁ、毎日」
「いいですけど、持って帰って洗ってきます」
「つれないなぁ、ちゃんって」
わざとらしく落ち込んで見せたりして
こんな時はもう 隊長の威厳すらない。
一見プロポーズのように聞こえるが、いや実際こんな台詞はプロポーズだ。
これを毎日やられると、どんな甘い台詞も聞き慣れてしまうもので
最初の頃は、多少ドキドキとしたその口説き文句にも
最近では、軽く交わすコツを覚えてきた私。
それでも毎日が楽しい日々で
私を見つけると隊長は、いつも笑顔で口説いてくれる。
たとえそれが冗談だとわかっていても
女として嫌な気はしないから、自然に顔はほころんでいる。
と、そんなことを思い出してるだけで、 実際今もそうだから
ふと我に帰り 手元を見ると
時間の経過に反比例して、籠の中にはほんの少しの花たちが
吹く風にゆらされて、可愛く体を揺すっていた。
やっぱり大人しく買いに行こうかな。
なんといっても隊長には薔薇の花が似合うもの
考え直した私が ゆっくりと立ち上がった時。
「ちゃ〜ん、何やってんの?」
後からふいに京楽隊長の声が
「あ、隊長のお花を集めているんです」
「花を? そりゃ大変だぁ、綺麗なお手てが荒れちゃうねぇ」
「いえ、、あの、私が申し出たので・・」
伊勢副隊長はうんざりとしているあの演出も、実は私は好きなのだ。
初めてアレを見た時は、素直に私が撒きたいと思ったほどだから。
「そんなさぁ、摘むことないのに。買ってくればいいんだよ」
「あ、はぃ・・・でもつい・・綺麗だったから」
「あぁ綺麗だね。 でも・・・・野の花はね、摘むもんじゃない」
もしかして隊長も私と同じことを?
「ねぇちゃん」
そして隊長の声が 優しく私の名前を呼び
後からきゅうと抱きすくめられて 体がびくんと震えた。
この甘い花の香りのような 微かに香る大人の匂いと
クセ毛の長髪が私の頬を くすぐる。
一瞬にしてぞくりと鳥肌が立つ。
「ちゃんっていい匂いがするね」
ドキドキ ドキドキ
「野原の匂いがする」
「そ、そうですか?」
声を発するのがやっと・・・・だけど
野原の匂いだなんて、褒められてるのかよくわかりゃしない。
しかもこの状況
どうしたらいいのかわからなくて、とりあえず言葉を探す。
「あのっ、た、隊長は薔薇の花がお好きなんですよね」
搾り出した声は、震えてみっともないだけだった。
「うん、綺麗だろう?」
慌てる私とは逆に、隊長は余裕たっぷりだ。
「でもね、野の花も好きだよ。この蒲公英なんて特にね」
「蒲公英、、、ですか?」
ちょっと意外な発言に、私はゆっくりと振り向いて
隊長の顔をそろりと覗きこんだ。
「ちゃんってさぁ、蒲公英なんだよね」
「・・・ 蒲公英 ・・・・」
女だもの。そりゃあ花に例えられて嬉しくないわけは無い。
でももう少しその・・・華やかな花でもいいんじゃないか
なんて思う
「うん、儚いのに強い。しっかりと地面に足を着けて頑張ってるところ」
「・・・・・。」
突然真面目な顔をするもんだから、私の心臓は高鳴り出す。
妙な沈黙が流れる野原の中で
抱きつかれたままの私の髪を
風が からかうように撫でていく
「ね、そろそろ僕の気持ち、受け取ってくれるかな?」
「隊長の気持ちって・・」
「酷いなぁ。僕はこーんなにちゃんが好きなのに」
「こーんなにって、どんなにです?」
「毎日プロポーズしちゃうくらい」
「あの、結婚ってもっと重要なことですよ?そんな」
「そんなこと、わかってるよぉ?」
「どうして私なんかに、結婚なんて・・・」
そんなに軽々しく言われちゃあ、ありがたみが薄れるのに・・・
「だって、いつも僕と一緒にいられるんだよ?いいと思わない?」
そんな 単純なこと・・・・・?
私の頭の中は真っ白に そして隊長は続ける。
「ねぇねぇ知ってた? ちゃん」
「はい?」
しかも、蒲公英って美味しいらしいよ。
どんな味なのかなぁ・・・
天婦羅がいいなぁ・・・・僕
隊長の言葉がやけに、耳に残った昼下がり。
そして今日も、隊長のプロポーズ大作戦は続く。
本気なのか、冗談なのかは未だに不明。
だけど私が笑顔で頷く日は、そう遠くは無いと思う。
蒲公英
蒲公英>日本ではあまり聞きませんが、ドイツやイギリスではお茶や料理の食材として人気だそうです
80000HIT感謝リクエスト・・・諒介様へ
(怒られても懲りてない お茶目な京楽さんとのリクエストでした)
どうして私は春水さんをカッコよく書けないのかなぁ。愛情が歪んでる証拠かしら?