優しい手のひら
赤青黄色 綺麗な色の紙に指を滑らせ、一つまた一つ折っていく。
周りに集まっている子供達のはしゃぐ声。子供達の喜ぶ顔が私は好きだ。
「わぁ、すごい。かっこいいなー」
「もっとおって。、もっと」
私はその願いに応えるよう、もう一枚の折り紙に手を伸ばした。
ミュウの子供は虚弱な子も多く、広場で元気に走れない子はこの部屋で遊ぶ。
子供達はみな可愛くて、今日も私の折る折り紙に嬉しい声を上げてくれていた。
ここにいるのはソルジャー・ブルーに助けられた子供達。
養育都市にいれば、間違いなくその存在を消去されていた子供達が声を上げて笑う。
その笑顔はみなキラキラと輝いて、繊細で汚れを知らない。
この笑顔を救い上げたのは ソルジャー・ブルー。
思えば私もそんな一人だった。
あの時は私もまだ子供で、未知の世界に怯えていた。
ただ、ソルジャーの力強さと優しい瞳だけを信じて。
あの頃は彼を神様か王子様かと思っていたんだ。
「? どうしたの?」
声を掛けられ、自分の手が止まっていたことに気付く。
「さみしいの? 」
「さみしいかんじがした」
「うん、。さみしいかんじがした」
口々に感じたことを口にする子供達。小さいとはいえ感情には敏感だ。
「ううん、ごめんね。大丈夫よ」
笑顔を見せると子供達は途端に安心したように微笑む。
私はここに来て間もないけれど、ミュウの皆は優しく親切で。
友達だっていっぱい出来た。寂しいことなんて何も無いはずだ。
ふっと頭を過ぎる顔を慌てて消して、私は色紙にもう一度指を乗せた。
暫くして微かな音を立ててドアが開いた。その途端に部屋の空気が変わる。
「ソルジャーだ!」 「ソルジャーだ!」
パタパタと駆け寄る子、這っていく子、その場で体を揺らす子。
部屋はたちまち歓喜の思念で溢れかえる。
あっという間に群がる子供達で、ソルジャーの足元が埋まる。
保育係のミュウ達は大慌て。
「これこれ、そんなに飛びついては」
「いや、構わないよ」
ソルジャーは優しい声でそう言うと、群がる子供達の声に耳を傾ける。
なんて優しい顔をするのかしら。 なんて優しい目をするのかしら。
子供たちに囲まれ楽しそうにしている姿を遠目に見ながら、私は折り紙を片付け出した。
子供達は大喜びだ。この様子ならもう必要ない。
すると
こつん・・・・
何かが私の髪に当って、ひらりと膝元に落ちた。
目に映る青い紙。
それはさっき私が折った紙飛行機だった。
振り返るとにっこりと微笑んだソルジャー・ブルーが、ゆっくりとこちらに向かって歩いて来る。
彼は私の隣に腰を下ろすと 落ちていた紙飛行機を手に取った。
「これ全部、が折ったのかい?」
「あ、はい」
ドキンと胸が高鳴る。こんなに近くで会話するのは久しぶりだった。
彼はとても偉大な人で、こんなに遠い人で。でも、憧れていた。
みんなが大好きなソルジャー。みんなの憧れのソルジャー。
けど、私の気持ちは皆のそれと少し違う。
これは恋という気持ちだと、わかっていたけれど。
「ここの生活はどうだい? 少しは慣れたかな?」
「はい、ソルジャー。ありがとうございます」
「そんなに畏まらなくていいよ」
「あ、でも。だって・・・」
「キミのことはずっと前から知ってるんだ。ね?」
あんまり素敵に笑うから、そんな当たり前のことが、何だか少し恥ずかしく感じた。
彼は、はしゃぐ子供達に視線を向ける。
「ありがとう、。キミのおかげで子供たちが楽しそうだ」
「いえ、みんなソルジャーが来てくれたことが嬉しいんです」
「僕が来るまでは、キミが遊んでくれていたんだろう?」
「あ、はい。子供達といると元気が出るので・・・」
「あぁ、そうだね。僕もこうやって子供達の顔を見ると、癒されるんだ」
この部屋を包むような優しい思念は、紛れもなく彼から発せられている。
それはしっとりと体に馴染んで とても心地良い。
「それに・・・」
「がここにいると感じたからね。 僕を・・呼んだ?」
カァッと顔が熱くなり、私は思わず俯いた。
すると、つと腕が伸びてきて、優しく私の頭を撫でる。
その手のひらはとても優しくて温かい。
それが嬉しくて嬉しくて、少し寂しかった。
この人にとって私はこの子供達と同じなのだ。
それでいい。それでいいけれど・・・・
「?」
「あ、はい」
「何か困っているのなら、何でも僕に相談するといい」
胸がキリと痛んで、私はただ、首を縦にふることしか出来なかった。
まさか、あなたに恋して苦しいだなんて、言えるわけも無い。
私の抱くこの気持ちが漏れてしまってはいけないと、硬く心を遮蔽した。
ソルジャーはそんな私を優しく見つめ、ふと宙に指を立てた。
「見ててごらん 」
私の折った紙飛行機が ふいと宙に浮かんだ。
赤青黄色 次から次へと 宙へ舞い上がる紙飛行機
彼に命を吹き込まれ まるで生きているかのように
ふわり ゆらり
サイオンをコントロールすることで、それは落下することなく、空を舞い続ける。
いつのまにか天井が紙飛行機でいっぱいになると
子供達は両手を上に伸ばしてはしゃぎだした。
その様子に紅い瞳は満足そうに細められる。
彼の笑顔は静かに優しく まるで花が風に揺られているようだ。
それがミュウ最強の戦士で、その腕がどんなに力強いか忘れてしまうほどに。
この人があんなにも強いのは、この人がこんなにも優しいからなんだ。
ゆらり ゆらり 紙飛行機が舞う
部屋いっぱいに 彼の優しさを乗せて