本日の担当
お茶を煎れようと通りかかった居間で
喜助さんは疲れたのか 炬燵に入ったまま転寝をしていました。
肩に毛布をかけながら そっと覗き込むと
まるで子供みたいに無防備な寝顔は
さっきまでの喜助さんからは想像もつかない いつものあなた。
二人きりの静かな部屋に 喜助さんの微かな寝息が聞こえています。
今日は空座フェスティバルの最終日でした。
黒崎くんに励まされたとはいえ
結局喜助さんには言い出すことも出来ずに迎えた当日。
ぼんやりと夕食の支度をしていた時のことです。
いつものように、商店へ出かけた喜助さんから、電話がかかって来たのです。
「あぁそれから、。衣装も忘れずに・・」
その一言を気にしながらも
私はダンス大会で着る予定だったドレスを持って
喜助さんの待つ商店へと向かいました。
商店へ着くと 迎えてくれたのはテッサイさんと雨ちゃんで
「さぁ、殿も急いで着替えを」
二人に急かされるように奥の部屋へと通され
私はとりあえずドレスに着替え、一体何が起こるのかとドキドキしていると
「、着替えは済みましたか?」
と、喜助さんの声
はいと返事をし、障子を開けた瞬間、私の心臓は跳ね上がりました。
だって、目に飛び込んできたのは
タキシードに身を包んだ喜助さんだったんですもの。
すらりとした長身と薄い髪の色に 黒いスーツはよく映え
洋服越しに見ても鍛えられた体の線は いつもより精悍で
それはもう、言葉にはならないほどに 素敵で・・・
私はぼうっとその場に突っ立ったまま、動く事も出来ずにいました。
そんな私の横で 「さん・・・お姫様みたいです」
と雨ちゃんは、はにかんだように顔を赤らめ
「なんと、お美しい。お似合いのお二人ですな」
と、テッサイさんまでもが、嬉しそうに頷いていました。
喜助さんは満足気に、ただにこにこと笑って
「さぁ、姫、お手をどうぞ」
と、私に手を差し伸べます。
「あの、ダンス大会?・・・喜助さん?」
「そうっすよ? 、参加したいって言ってたじゃないっすか」
「でも・・・あれはその・・・」
黒崎くんが言ってくれたのかしら? それとも以前から準備を?
頭の中では色々な思いがめぐり巡って 私は言葉が出ませんでした。
そんな私をよそに喜助さんは
「の相手は いつでもアタシなんすよ」
そう言いながら 優しく微笑んで私の瞳を捕らえ
「だって、はアタシのもの、そうでしょう?」と、囁いたのです。
会場は街中の人が見に来ているような、結構な観客数でした。
そして皆の視線は、どうも私たちに集中しているようでした。
心配して来てくれたのでしょう。
黒崎くんは数人のクラスメートと一緒に、一番前に陣取って
そして私と視線が合うと それはもう嬉しそうに、手を振ってくれました。
勿論、テッサイさんも雨ちゃんも、ジン太くんも。
皆に見守られているとはいえ、こんなにも沢山の人前で踊るなんて
緊張感に胸は高鳴りました。
観客の多さもさることながら、目の前にいる旦那さまがあまりにも素敵で
まともに顔を見ることすら、恥ずかしかったものです。
そして間もなく音楽が流れ出し ダンス大会は始まります。
私たちが踊り出すと 一気に歓声が上がり始めました。
あの人誰?
浦原さん夫婦じゃない?
え?あの人 店長さん?
嘘でしょう?
あんなに素敵だったの?
みんなの驚く顔、驚いた声が、 あちらこちらから届き
くすぐったいような 誇らしいような気持ち。
私はまるで 本当にお姫様にでもなったような気分でした。
喜助さんがこんなにもダンスが上手だったなんて
それも私を驚かせた一つでした。
軽やかなステップは メロディにのって私を導き
抱きとめる腕は 私を守るように力強く
そしてまるで羽が生えたように 私をふんわりと包んでくれる。
私はもう、喜助さん以外何も見えていませんでした。
息がかかるほどの距離で 喜助さんと目が合うたびに心臓はドキドキ。
「喜助さん・・」
「うん?」
「う、ううん」
この感激を、この喜びを、 もっとあなたに伝えたいのに
ただ、好きだという一言が 毎日伝えているその一言が
あの時は照れくさくて出てきませんでした。
そんな私を見透かすように喜助さんは
「ちょっと見せ付けちゃいましょうか?」
といたずらに囁いたかと思うと
私の頭をぐいと引き寄せて、そのまま軽く唇に触れ
「愛してるよ」 と・・・・・
周りからは ほぅ〜と歓声が上がり、 拍手まで捲き起こりました。
思い出すだけでも 顔から火が出そうです。
いつも一緒に寝起きし、いつでも隣にいてくれるあなた。
もう長いことそんな生活を送ってきたのに
いつでもあなたは新鮮で、私はいつだって
あなたと瞳を合わせるだけで、トキメキは溢れてくる。
もう音楽なんて聞こえないほど 私の世界はあなたで埋められて
翼が生えたようにふわふわとした 甘い空気の中で
私たちはそのままそこで抱き合ったまま
結局途中で踊ることも忘れて
ずいぶんと長い時間ずっと離れませんでした。
あの夢のような出来事を思い出しながら
私は何ともいえない幸福感に
体の奥底がまた熱く震えるのを感じました。
「う・・ん」
いつのまにか 喜助さんの隣に座り込んでいた私は
喜助さんの声に、ハッと我に帰り
名残惜しく喜助さんの隣から腰を上げ
音を立てないように台所へ。
喜助さんが目覚めた時のために
軽い食事と熱いお茶を
だって私は あなたの奥さんなんですもの
つづく・・・
(旦那さまは王子様/笑
作務衣のまま 踊ってもらおうかとも思ったんですがね)