特別な日常
日差しは夏の名残り、木陰に吹く風は少し涼しい。
昼下がり、私とギンは雲を眺めながら、他愛も無い話をする。
くすくすと笑ったり、突っつきあったり それはいつもと変わり無い風景。
ただ、いつもと違うのは、今日が彼の誕生日だということ。
今日は早く帰るからと言う彼の
いつもと変わらない 嬉しそうな横顔。
そして私は満ち足りた気持ちに包まれる。
結局は情けないけれど、ギンの欲しいものが思いつかず
彼の言うとおり今日一日の全てを、彼の為にだけ使おう。
そう思って今、ここにいる。
「本当に何も欲しい物は無かったの?」
「ん」
「それしか思いつかへん」
去年と変わらず、私が欲しいと言ってくれたギン。
こっそり盗み見るその横顔に 自然と愛しさが満ちてくる。
「そういや、去年の誕生日に初めてを貰うたんよね」
チラ・・・ 試すような視線
「そうだっけ?」
「とぼえんでえぇやん。、真っ赤になって可愛かったわぁ」
「もうっ言わないで〜 だって誕生日のお祝いに頂戴なんて言うんだもん」
堪えきれずに笑い出すギン
「せやけどそれが一番欲しかったんやって」
明るい太陽の下で、初めての夜の話なんてされては
今更だけど照れるしか無いでしょう。
赤くなった顔を見られないように、そっぽを向いた。
瞬間 私の肩は彼の手に引き寄せられ
頬に温かい唇の感触。
私とギンが結ばれてから
もう1年になる
朝は一緒に目覚めて、お互いの隊舎へ向かい
お昼は抜け出して、いつもの木の下で私の作ったお弁当を食べ
誰よりも早く仕事を抜け出し、私たちの部屋へ帰る。
毎日繰り返している特別なこと。
夕時になると、二人だけの場所へ逃げるように駆け込んだ。
台所にはギンの好きな食材が並んでいる。
向うでゆっくりしていたら? そう言ってるのに傍を離れない彼は
料理をする私の後をウロウロと歩き、時折手元を覗き込む。
「こら、つまみ食いなんてお行儀悪〜い」
「あ、見つかってもた」
そして子供のような悪戯な瞳は、私だけが知っている秘密。
「えぇ匂いやわ〜今晩のご馳走は何?」
「んっとね、ギンの好きな物い〜っぱい」
「い〜っぱいか。食べきれるん? それ」
「食べきれないかもね〜 誰か呼ぶ?イヅルくんとか」
「駄目〜 二人きりじゃなきゃ嫌や」
性質の悪い甘え声を出す。
私がくすくすと笑いだすと、後からもくすっと笑う声がする。
背中に視線を感じながら料理をするのは、楽しいもの。
お鍋がふつふつと湯気を吐き、包丁がまな板を叩く音。
そう広くも無い台所には、私とギンの声だけが響く。
「なんや、平和やねぇ」
そんな彼の言葉に苦笑い。
「ごめんね、結局いつもと変わらなくて・・・」
「ボクの望みどおりやで?」
「こんな風に、と一緒におれるってことが
やっぱりええなぁ、って思うてたとこ」
絡み合った視線の奥で ”好きや”と囁く。
彼の瞳は私を捉えて離さない。
「大好きだよ」
「うん」
両手を広げて見せるのは、”おいで”のサイン。
思わず駆け寄って抱きついた 彼の胸の中。
ギンはぎゅうと私を抱きしめて囁いた。
「ほなら、今晩も頼むで」
「・・・・何でいつもそうなるの」
「嬉しいくせに」
特別ではない普通の日常が
こんなにも特別で素敵な時間なんだってこと
思い知らされたような気がするよ。
プレゼントを貰ったのはどうやら私みたい。
ずっとあなたの傍にいたい。 来年も再来年もずっと
あ・・・そういえばまだ
お誕生日おめでとう、って言ってなかった。
それは今夜、布団の中で言うことにしよう。
誕生日はほのぼので。結局何も思いつかなかったので;