「きゃーーーー」


坂道をもの凄いスピードで下っていく自転車。

前には一護、後ろには私。

学校に遅れそうってことで、一護は全速力で自転車を漕いでいる。

ごうごうと音を立てて 風は容赦なく私の顔を叩きつけ

首に巻いたマフラーなんて真横に一直線に伸びている。






「早いー!早いってば一護〜」

「おゎ!耳元で叫ぶなって」

「だってコレ死ぬ!死ぬよぉ」

「アホか、大袈裟なんだよは」





一護は私の訴えなんて無視してる。

別に遅刻するぐらいどうってこと無いじゃないか。

一護なんてしょっちゅう行方知らずになるくせに(なんて、これ言ったら怒られそ)

元はといえば寝坊して、寒空の中一護を散々待たせた私が悪いんだもんね。

朝っぱらから体力使わせてごめん。明日は絶対早く起きるから

心の中で謝って 目の前で揺れている一護の背中を今更ながらじっと見た。



今は冬。私の手は彼の腰に回されていて こんなにもくっついているのに

風は強いし空気は冷たいし 冬服の上に羽織ったコートの上からじゃあ

一護の体温もあまり感じなくて残念に思う。それにしても寒い。




「一護〜、寒いよ〜」

「当ったり前だろ。しっかり掴まれ」

「うんっ」




ぎゅうと抱きつくと一瞬 一護の匂いがして 私はたちまち嬉しくなった。

ちょっとロマンス? ま、そんな雰囲気はまるで無いけれど

さっきから道行く人が 私達を振り返ってる。

大袈裟に騒いでいるのが面白いのか、朝から仲良く自転車に二人乗りだなんて

もしかしたら私達が羨ましいのかな。そうだったらいい。













自転車は下り坂を下り、やっと平らな道へと入った。

スピードは随分と落ちて 私は胸を撫で下ろす。

見慣れた風景が少し違って、キョロキョロと辺りを見回した。

ここから学校までまだ距離はあるけれど、もう生徒の一人や二人見えてもいい頃。

だけど私たち二人意外、他の生徒の姿は一人も見当たらなかった。あんなに急いだのに




「わ・・・誰もいないねー」

「だな。やっぱ無理だったか?」

「あんなに必死だったのにねー」

「って、誰のせいだっ」



一護は軽く私のおでこをツンと押す。

その仕草が大好きな私には逆効果なのに。




「ん・・・もうさ、いいよ」


「って、何がいいんだよ」


「学校」




一護は大袈裟に笑い出す。お前メチャクチャだな、なんて言う。


そして・・急いで損したぜ、と言いながら

自転車を学校とは逆の道に方向転換した。


「この不良女」

「一護も共犯だよ」




一護はさっきよりもずっといい顔で笑って 自転車のペダルを踏みしめた。

私も同じように笑って、一護の腰にしがみつく。

風も柔らかくなって、一生懸命自転車を漕いで温まった一護の体温を 

今度ばかりはしっかりと 私はこの胸に感じた。




「一護、あったかい」


返事は聞こえなかったけど、一護の肩が少し揺れたから

今嬉しそうに笑ってることぐらい、お見通しだよ。






自転車がゆっくりと動き出した時 始業のチャイムの音が聞こえた。

だけどそんなこと二人ともお構いなしだ。

そう、これはまさしく愛の逃避行、なんちゃって。





「っし。今日の授業はデートに変更!」

「賛成ですっ。黒崎センセー」






二人して笑うと嬉しさが込み上げる。


見上げれば青い青い空。


風は相変らず冷たいのに 私の体はぽっかぽかに温かかった。









愛の逃避行