「・・・・・と、言うわけなんです」
一頻り喋り終えて目線を上げると、その人は食い入るような目で私を見ていた。
それは少し驚いているようにも見えて、ちょっぴりの自己嫌悪に陥った。
万事屋って、本当に何でも引き受けてくれるらしいよ
そんな噂を聞いたから、思い切ってやって来たんだけど
浮気調査とかならまだしも、浮気してる彼氏とその女を別れさせて欲しい、だなんて
やっぱり卑怯な女だって、呆れてるのかも知れない。
万事屋の主人らしいその人は、無言のまま ただじーっと
あの・・・ 何でそんなに見てるんですか!?
私はなんとなく気恥ずかしくなって 視線を下に移した。
カチャカチャ、カチャカチャ
さっきからずっとそんな音を立てている彼の手元を見ると
目の前の湯飲みに次々と砂糖を入れては ぐるぐると掻き回してる!
一瞬ギョッとして、遠慮がちに湯飲みを指差して
「あのぉ・・・・砂糖・・」
「おわっっ!!」
彼は慌ててスプーンを取り出し、不安そうな顔をして、口に運んだ(え!飲むの?ソレ)
「ゲホォッ!甘っ! さすがの銀さんでもちょっと無理コレ」
いや、無理だろうと思います。だってそれお茶ですから
お茶に砂糖を入れる人なんて、初めて見ましたから
「いやーまいっちゃったなぁ」
ポリポリとその銀髪の頭を掻きながら、今度は汚れてもいない机をしきりに拭きだした。
なんだか・・・・落ち着きのない人だなぁ
だけどその浮かれたような顔は、私の依頼に呆れた感じでも無く
もしかしたらお客さんが珍しいの?
確かに店の雰囲気からして、あまり流行っているとは思えない。
「あの・・・聞いてました?」
「あ、あぁ、聞いてるよー聞いてますとも」
机を拭く手のスピードが上がる。どうみても挙動不審者だ。
「今日はさ、うちの使いっぱの神楽が遊びに行ってて・・・
ついでに使用人の眼鏡も実家へ用事で出かけててね、お客さんにこんな不味いお茶しか出せなくて。
いや、アイツらがいると煩いから、ラッキーっちゃラッキーなわけで」
「神様ありがとう!みたいな?」
「あれ?何言っちゃってんの? 俺」
何を動揺しているのか、不自然なはしゃぎ振り
それに何だか 少し顔が赤いような気もする。
こんな人に任せて大丈夫なんだろうかと、私は急に不安になった。
「あの、やっぱりいいです。・・・すいません」
他に万事屋ってあったかな? とりあえずここはよそう
深々と頭を下げ、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がると
銀髪のその人が
「チョイ待ち。お嬢さん。 俺にいい考えがあるんだけど」
と、思い切ったような口調で私に告げた
「え? 引き受けてくれるんですか?」
「そりゃ、万事屋って看板出してるぐらいだからよォ」
私はほっと胸を撫で下ろすと、詳しい話をしようと椅子に座り直した。
卑怯な女でも何でもいい。もう辛い思いはしたくない。
バックの中から 相手の名前と特徴を書いたメモを取り出して彼の前に置いた。
「これです。あ、でも住所がわからないんです」
「そんなのいらねーよ」
さっきとは違い余裕すら感じさせる口調。それぐらい自分で調べる訳ね。
そうだ、こう見えて案外やり手なのかも知れない。
「あ、名前はわかりますよ?」
「ちゃんでしょ?・・ 」
「や、それ私の名前ですから!」
「名前も可愛いよなぁ、うん」
「・・・・・」
「あ、俺、銀時だから。銀さんでいいよ」
「?」
首を傾げる私にその人は、ピカピカになった机をキュっと鳴らして言った。
「そんな浮気男なんて、こっちから振っちゃいなさい」
え? え? 何言ってるの?
私の頭の中は、疑問符でいっぱいだ。
「銀さんはぁ、こう見えて優しい男なのよ」
「・・・・はぁ?」
「確かにちょっとばかし、いやかなり貧乏だけど、やるときゃやる、っつーか」
「・・・・・」
「甘いもんには弱ぇけど、一度惚れたらとことん一途だし!」
「・・・・・」
「あ、サイズは人並みだけど、エッチもなかなかのもんだと・・・」
「あの、もしかして私を口説いてません?」
「そうです。俺と付き合って下さい」
きらりと目を輝かせてそう言うと、私の手を強引に握って
ヨロシクお願いします!と言った。
いきなり握られた私の手は その大きさと温かさにほっとする。
「女はねー 愛するより愛される方が幸せなんだって、どっかの母ちゃんも言ってたし」
「俺はちゃんを泣かせたりしねーよ」
そう言った銀さんの顔は、意外なほど格好良く見えた。
万事屋へようこそ!
こんな始まりも 有りかも知れない―